男性の育休取得を考える:「産後うつ」を徹底解説

   

「夫の育休」が産後うつを救う!妊娠・出産のダメージをやわらげる【協力】を

働くモチベーションや疲労の回復にも大きく関わる「家庭環境」。
その中で新しい命を授かり家族と共に育んでいくことを経験できるのは、とても喜ばしいものです。

ですが、医療技術の発達した今でも、出産というのは 「母子の生命に深刻な影響を与えかねない」イベント。昨今では妊産婦の女性がうつに陥りやすい環境にあることが社会に認知され始めました。

「産後うつ」は、その後の家族関係や子どもの成長に影響するだけでなく、産休・育休からの復帰や復帰後のプレゼンティズム(仕事などの生産性低下)にも大きく影を落とす「落とし穴」です。

今回は妊娠出産によって女性の心身にどのような影響があるのか、また「産後うつ」を防ぐために私たちができることは何なのか、探っていきます。
 

妊娠・出産のダメージは「事故」レベル
母体に起こる心身への影響を再確認

自動車事故や転落と同じくらい?
文字で実感する【出産の身体ダメージ】

医療技術が普及した日本では、安全な出産のための制度が整えられており、いまや出産で母子の健康が損なわれることは「めったにない」と感じられる程度までになりました。
第二次ベビーブームにあたる昭和50年でも 27.3 %もあった母子死亡率は、2017年の時点で0.5%程度。世界各国と比較しても「安全に出産できる」国と言える環境です。

ですが、妊娠・出産による物理的な「身体ダメージ」は人間の身体構造上必ず発生します。
出産と同レベルの骨盤周辺の臓器・内臓・筋骨の損壊というと、自動車事故や高所からの転落があたります。
その他にも胎児と胎盤・羊水といった胎児を育てるための機構を10カ月維持し支えた分の負担、出産時にかかる出血や痛み・いきみによるショックも無視できないダメージを母体に残すでしょう。

このダメージは現在いかなる医療をもってしても避けられないため、妊娠・出産は病気ではない(=「治療ができない、耐えるしかないので可能な限りいたわる必要がある)」と言われています。
 

気分や内臓の状態を左右する「ホルモン」も激変

もう一つ、産前産後の母体を襲うダメージがあります。
出産のためにすさまじい変動を見せる「ホルモンの分泌」による影響です。

妊娠中は女性ホルモンと呼ばれる「エストロゲン」「プロゲステロン」が最大で通常値の数百倍まで増加していますが、出産するとそのホルモンの分泌は一時的とはいえ、ほぼなくなる程まで落ち込みます。
その変動量は女性のライフサイクルの中でも身体つきに変化の起こる思春期や、体調トラブルの起きやすい更年期の約2倍の「ホルモン落差」があると言われています。

「エストロゲン」や「プロゲステロン」は抗うつ・抗不安作用があるため、この落差によって出産後には強い情緒の不安定性(いらいら・不安感・不眠や切迫感・何もする気がしない、無気力……など)を感じる方が多くいます。
また、急激なエストロゲンの低下は体調にも大きく影響し、更年期のようなめまい・身体のほてりや動悸・発汗・むくみなど多様な症状の他、妊娠中は収まっていた片頭痛やぜんそく発作といった持病のぶり返しなども報告があります。

これによって不眠や食欲不振、気分の落ち込み、肩こりや胃腸のトラブルなども併発しがちに。
体調不良やホルモンなどの内分泌の作用、メンタルや感じ方の変化は産後の大きな環境変化も相まって、「自分の勤める会社の合併・解体」レベルのストレスとして母体にのしかかります。

このような身体変化や環境変化による「出産後、うつ状態になってしまう」=【産後うつ】が、深刻な問題となっています。
 

【 産後うつ 】は「家族」だけの問題ではない!
影響の深刻さは社会、企業まで

産後うつは「不眠」「新しい環境への不安」「責任感」が影響
ホルモンの関係もあって【 孤立 】しがちな産褥期

育児をしている家族には、特にうつ症状につながりやすい「不眠」「環境の変化」「重い責任感」といった要因が揃っています。

特に授乳期間中の「睡眠時間の低下」は深刻です。
新生児は2~3時間おきの授乳が必要なので、必然的に母体はまとまった睡眠をとることが難しい環境に置かれます。
乳児期には夜泣きやぐずり、授乳後の吐き戻しなど「授乳の後始末」に追われて、その間の睡眠時間も取れないのもよく聞くトラブルです。
パートナーが非協力的な家庭では「自分と子供の二人きり」という環境で、誰にも頼れず家族分の家事も一人で抱え込んでしまう……という事態にも追い込まれかねません。

・心身のダメージが回復しきっていない状態
・目を離したらちょっとしたことで死んでしまうかもしれないという「責任感・不安感」
・慢性的な睡眠不足環境
産後・授乳期の母体は長い時間「うつになりやすい」「うつが深刻化しやすい」状況に置かれることになります。

また、授乳中に分泌されるホルモンの働きによって授乳中の母体は
・気分の落ち込み、倦怠感、自分が矮小に感じるといったマイナス感情を感じやすい
・赤ちゃんを守ろうと攻撃性が高まる、信頼関係のない人との接触を避けがちになる

といった傾向があることが研究で明らかになっています。

そのため、うつの傾向・症状を周囲が見つけても、孤立を深めてしまう・ヘルプや干渉を拒みがちになることもしばしば報告されています。
 

産後うつは母親の社会復帰にも影響。
産後2~3週がストレス反応のピーク

国内の多施設が共同で行った研究では、妊娠中~産褥期にあたる女性の約5%にうつ病をはじめ精神疾患の症状を確認、また別の厚生労働省研究班による調査(2014年度)では、産後2週時点で初産婦の25%・出産経験がある人でも10%弱が 「うつの可能性がある」と判定されています。

産後うつは母体の健康だけでなく、子どもの心身の発育・家族との関係性の構築、家庭環境の形成にも強い影響を及ぼします。
2016年に発表されたデータでは、東京23区で発生した妊産婦の自殺率が産科異常(出産などの医療・健康上の問題)による死亡率の2倍以上であったという報告があり、覚えている方も多いかもしれません。

また、一度うつ症状を経験した方はその後1年以内の再発や悪化を経験することが多く、経過によっては職場復帰後の人間関係や業務をこなすだけの体力を回復する時間がより必要となる・復帰後も短期間で再休業してしまう……といったケースの要因のひとつとしても十分考えられるでしょう。
 
特に体が激変する産後2~3週はストレス反応のピークを迎える時期とされており、この間の「サポート」が産後うつの深刻化を防ぐキーポイントとして注目されています。
 

産後うつ唯一のワクチンは「家族」
「男性の育休・家庭参加」が特効薬

産後うつの予防法として「男性の育児休業取得」が今、注目を浴びています。

産後うつを予防する一番の対策は、「休養」です。
安静・安心に過ごせる環境・十分な睡眠時間を確保し、体力とメンタルの回復に専念することで、母子ともにストレスを軽減し、不調をうつにつなげず産褥期を乗り越えることができるとされています。

また授乳期に母親のメンタルが安定していることで、親子・親同士の関係性構築がスムーズになり、虐待の予防・情緒や認知能力の発達へプラスの作用があることも研究で認められました。
家庭内が安定することで、男性の産後うつ(出産による環境や周囲の期待・パートナーとの関係性の変化から来るうつ)の予防にもつながっていることがわかっています。

十分な休養の時間を確保するためには、母親とは別の人間が、「妊娠中・出産後も体力のある」育児のメインスタッフを務めることが欠かせません。
出産のダメージに左右されることがなく家事ができる能力がある成人、また母体と既に信頼関係が構築されていて、気が立っている状態でも受け入れられる夫・男性・家族は最高の「産後うつワクチン」候補なのです。
  

参加は「妊娠中から」スタートを
参加しないと生まれない「絆」を培おう

男性の家事・育児参加は、先進国と比較して現代の日本社会では残念ながら「あまり進んでいない」といえるでしょう。

基本的な家事スキルに差がある現状から、いきなり「親になるから」「家事をしなくちゃ」というのは、本人にも受け入れる側にもかなりハードルが高いスタートになります。
特に今まで家事をしてこなかった人では、「任せて安心」と思ってもらえる信頼関係に至るまでに結構な時間がかかることでしょう。

乳幼児は大人なら大丈夫なことが「命取り」につながる存在。育児ケアには「家事への十分な経験」と「育児に必要な知識」が問われます。
一朝一夕ではいかないことですが、まずは妊娠中・妊娠前から「家族全員、自分と” もう一人 “の分まで家事ができる」を目指して家族とのコミュニケーションや家事分担を見直してみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

妊娠・出産で家事・育児参加を決意した方には、妊娠中や産後のパートナーとの関係性についても学ぶ機会が必要です。
「産後の生活モデル」や「出産後女性の心身に起こる事」、「うつやメンタルヘルスの基礎知識」を男女の隔てなく知ることは、パートナーの精神状態を理解する思いやりと休養に必要な配慮を考える土台になります。

パートナーが「頼れる」「安心して任せられる」という安心感こそが産後うつ予防に必要な足掛かり。そのためには時間を惜しまず「家庭に参加している」経験の積み重ねが求められます。
 

企業ができる【 育児 】とは?
「労働の仕方
」で家庭は変えられる

「お父さんが抱き上げると泣き止まないけど、お母さんなら泣き止む」

そのような経験をした、お子さんを持つ方も少なくないでしょう。
ですが、これは何も「お母さんだから」ではなく、どれくらい子どもと一緒にいたかという「経験の差」であることがすでにデータとして明らかになっています。

男性の育児参加を阻むものの一つは、「長時間労働」と言われています。
一緒にいる時間が育児に及ぼす影響は、想像以上に甚大です。
家族からの信頼感だけでなく、「家庭に自分の居場所がある」「家族から大事に思われている」という自覚的な部分が欠けてしまうと孤立感や徒労感を感じやすく、メンタル不調の要因の一つともなります。

ストレスチェックで言えば「家庭からの支援」という項目に数値として現れているパターンが挙げられます。
メンタルや身体の不調による休業・離職リスクケアの一環として、従業員の家庭環境や育児・介護をする従業員への柔軟な対応に取り組む企業も増えています。

育休後の復職を妨げるマタハラ・イクハラの対応はもちろん、「男性の育休取得」に関する法整備も進む中、これからはより企業は育児に関する「意識」面からのアプローチが求められているのかもしれません。

また、「かくあるべし」という古い価値観によって、「家事をするなんて男らしくない」「育児休暇は男性に必要ない」といった自分の内面・周囲からの圧力によってパートナーからのヘルプに応じることができない方というケースも問題です。

アンコンシャス・バイアスと呼ばれる、私たちが知らず知らずのうちに形成してしまった「かくあるべき」という色眼鏡は、時に本当に困っている大切な人を見えなくさせてしまいます。

まず「普通~~だろう」「こうあるべき」「××なら○○だよね?」という考えを一度置いて、パートナーが何を求めているのかきちんと向き合い、本人の言葉を受け止めるところから信頼は始まります。
 


新しい幸せ・これからの社会を育てていくにあたり、家事や育児、介護といった「見えない負担」の問題はもはや避けて通れないものとなりました。

その組織の一員としてみてもらうためには、そのための「働き」をきちんとこなすべきということは、企業でも家庭でも同じです。
「自覚を持つ・子と関わるから親になる」ということを心に、1回2回の失敗であきらめることなく「関わり続ける」ことを意識していただきたいと願います。
 

初出:2021年02月15日

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