新入社員の「リアリティ・ショック」を和らげる“ラインケア”テクニック:エンゲージメント経営を考える

新入社員はギャップにつまづく!「リアリティ・ショック」を和らげる“ラインケア”テクニック

昨年から続く新型コロナ感染症の影響など、昨年・今年の就職活動は通年通りといかないことが多々起こる「波乱」の年でした。
勝手の違う環境にあるのは就職活動をする学生も、採用する企業も同じ。なじんだコミュニケーション方法が取れない状態で新入社員を迎えることとなった企業も多くいるかと存じます。

その中で、今、早期離職やエンゲージメントの低下を引き起こすものとして注目されているのが「リアリティ・ショック」です。現実とイメージの『ギャップ』が引き起こすモチベーションや成長への悪影響について、研究の光が当たり始めました。
特に今までと全く違う新しい環境になじまなければならない新入社員の場合、「最初の一歩」がこれからの社会人生活に響く「つまづき」にもつながりかねません。未来の戦力として長く働いてもらうためにも、組織として初めの一歩の「ケア」が求められています。

この記事では、「リアリティ・ショック」の実態と企業・職場ができるケアのヒントをご紹介します。
 

新入社員がつまづく初めの「ギャップ」 五月病の原因にも

組織の一員として新しく参加する方には、越えなければならないハードルがたくさんあります。現在企業の力として活躍している皆様にも、「入社1年目」だった苦労の時期があるでしょう。
最近は転職・中途採用といったキャリアチェンジも選択肢として広まり、何歳になっても「新しい環境に飛び込む」経験が発生する機会が増えました。

そのような中で、問題として浮き上がってきたのが「イメージと現実のギャップ」が引き起こすモチベーションやメンタルへのダメージ、『リアリティ・ショック』です。
リアリティショックは新入社員だけでなく、新しい環境や立場に置かれるすべての人が経験する可能性のあるものです。アメリカの組織心理学者のE.C.ヒューズが提唱したこの概念は、特に労働に関する場面で離職・退職の理由になることもあり研究と対策が進められています。

実際にどれくらいの新入社員がこのギャップに直面しているのでしょうか。
2019年に実施された全国の大学生・1~3年目の新社会人(合計1700人)を対象とした調査データでは、3/4以上の新入社員がその「ギャップ」に直面し、ショックを受けたことがあるという回答が得られています。
 

リアリティ・ショックを受ける人の割合
リアリティ・ショックを受ける人の割合
 

特にそのギャップが「イメージよりも悪かった」場合、受け止め納得するためには時間も努力も要します。うまくそのギャップと折り合いがつけられないと、モチベーションの低下やフラストレーションを感じて仕事に対する意欲を失ってしまう大きなきっかけとなるでしょう。

新しい環境に挑戦する人が直面するギャップの原因は大きく「関係」「能力」「環境」の3つにわけられます。

  • 今までの関係性との「ギャップ」
    (学生の時と違う「責任」や「組織内・外」とった複数方向に渡る関係性、「組織の仲間」の距離感)
  • 自分の能力と現実の「ギャップ」
    (自分が自覚していた能力と実際の業務・スキルへの評価のギャップ、達成感・裁量の程度)
  • 思っていた環境・生活との「ギャップ」
    (事前に思い描いていた働き方・休みやすさ・忙しさや精神的な圧迫感の違い、報酬感の差)

これらのギャップは何も新しい環境に直面したときのみに起こるものではありません。
入社直後だけでなく、ステップアップや昇進、結婚など生活の「節目」にあたる時期に起きやすい、という報告があります。
 

オンライン化で進む新入社員の孤立 悩む「仲間づくり」

これから長い時間を過ごす組織の中で「人間関係」を理解することは仕事をスムーズに進めるためにも早めに行いたいもの。「新人」の期間はその基礎を肌で感じる時期でもあります。
ですが昨年や今年は慣れ親しんだ「対面」というコミュニケーション方法が制限されてしまったため、「孤立感を感じた」という新入社員の声も聞こえてきます。

オンラインでのコミュニケーションの特徴として「おしゃべり、雑談がしにくい(複数人が同時に喋る、聞き取りが難しい)」という点が挙げられます。またテレワークや時間差通勤などで、会うことができる先輩や同僚が制限されてしまい「人間関係の全体像」がつかみにくいことも考えられます。

このような環境では業務の指示を行う関係上「上下のつながり」は自動的に構築できても、同期・同僚・仲間といった「横方向のつながり」の形成は難しく、「相談しにくい」「悩みや不安の共有が気楽にできない」環境にある新入社員の増加が今後も予想されます。
 

ギャップはステップアップになるか? 3年後に現れる「成長感の差」

予想と現実の「ギャップ」を感じる人が多いということは、
「ギャップを乗り越えて今も働いている方も多い」
「ギャップは”乗り越えられるもの”として広く認識されている」
ということになります。特に転職が一般的になった現在では「離職・転職」を「ステップアップ」とみる傾向も珍しくありません。

ですが、就職後の環境について何らかのギャップを強く感じていた場合、入社後の成長・仕事への取り組み姿勢に対しマイナスの効果があるというデータがあります。 
 

リアリティ・ショック高群の割合
リアリティ・ショック高群の割合
 

上のグラフは入社後の「リアリティ・ショック」が大きかったと回答した方の分布と、仕事に関する実感の有無・離職者数との比較です。
「成長実感が無い層」、「働くことを楽しめていない層」、「3年以内離職者」で総じて統計的に優位なほど「何らかのリアリティ・ショックを感じた方」が多いという結果です。

上記結果で特に注目すべきは「成長実感がない」層との関係性です。
これは就職活動生の8割が就職後の生活に希望する「仕事を通じて成長したい」という意欲に対して、「働き方・評価方法」自体が意欲に見合う成長過程・報酬を提供できていないことの表れではないかと考えらえます。

この問題は長く勤めるほど顕著な影響が出ることも報告されています。
上述の調査データで実際に就職した社会人に対し「企業に対する満足度」を調査したところ、「リアリティ・ショックがあった」方と「スムーズになじめた」方とでは年を経るごとに企業満足度・離職検討率に大きな開きが発生していました。

一人前のスタッフへ「教育」するには、時間も労力も通常の業務以上に必要になります。やっと働く力が育ってきたスタッフが離職してしまう・なかなか人材が定着しない原因には、初めに起きた「つまづき」が影響している可能性は無視できません。
 

リアリティ・ショック対策は「コミュニケーション」で予防!
上司ができる3つのケア

誰しも新しい環境には不安や希望を抱くもの、前向きな気持ちをポジティブな意欲につなげてもらうためにも『ギャップをつまづきにしない』フォローが必要です。

そのためには「ギャップを生じさせない・少なくする」「ギャップの乗り越え方を考える」「ギャップの『消化』を助ける」の3つがポイントになります。
ひとつずつ見てみましょう。

まずは「ギャップそのものを生じさせない」ための努力は欠かせません。
そのためには実際に働く環境・関係性と連動した「現場を理解してもら う」働きかけが重要です。
特に新卒で入社する社員は、「公開情報」「会社説明会」「OB・先輩からの情報」など、限られた窓口から情報を得て会社のイメージを組み立てます。適切なリアルの理解には、環境に飛び込む前の段階で「正しい等身大の情報」に触れる機会を設ける必要があります。
入社までの間に定期的に連絡を行ったり、会社見学やインターンの中で「現場の社員との面識をもつ機会」を増やすイベントを企画するなど、「採用は人事・教育は現場」といった分業制の採用から一歩現場へ踏み込んだステップがあると良いでしょう。

入社後は「ギャップの乗り越え方」を提示しましょう。
ギャップがつまづきになってしまう一番の原因は「遠くの目標と、今現在の状況とがリンクしない」ことです。
理想の状態になるための明確なビジョンがないこと、引越や昇進などがらっと環境が変わる人であれば、「働き方」を実現するために何をすればいいのかという具体的なステップを明示してあげることが力強いサポートになります。

特に新入社員は成長を実感することが自己効力感にも作用する大事なポイントです。

・業務やスキルのレベルを「なにができたか」「それにどれくらいかかったか」という点から可視化して提示する
・「今後こういう成長方向を目指そう」と習得スキルや長期的な目標の具体的な例を挙げる
・「〇月×日までに△件やる」「次の資格試験に受かる」という短期目標(マイルストーン)を更新していく

といった「遠い将来の成長」と「近い未来の目標」を目で見える形で組み合わせ『成長を実感できるシステム』を築きましょう。

最後に「ギャップの『消化』を助ける」です。
上記の通り、オンラインコミュニケーションが推奨される今は「横のつながり」が構築しにくい環境といえます。このような場合は、個人のコミュニケーション能力だけでなく、「組織的に交流の機会を設ける」ことが重要です。
社内ツールに「雑談部屋」や自分の身近なことを毎朝ひとつ報告する掲示板を運営している組織もあります。定期的・日常的に雑談や交流の時間を企業側から提供してはいかがですか。
また、マナー研修など基本的なスキルの習得をおろそかにしないことで、「社会人としての考え方のモデル」を提示し、責任や判断の基準を明確に共有してあげることはその後の企業生活の安心感にもつながります。

複数の相談先・会社の「リアル」の理解・これから先の「モデル」を得て、情報を客観的に見る「鏡」を自分の中に獲得することが新人の一番のお仕事ともいえますね。
 

「頼れる人がいない」が一番つまづきやすい

誰でもはじめは「新人」。
昨今の何度でもやり直せる・新しい環境に行ける風潮は言い換えると「何度でも新人になる」という事でもあります。新しい環境に飛び込むその時、「飛び込む先について、アドバイスを求められる」人がいるかいないかは、その後の成長に大きく影響するというのは皆様も実感のあることでしょう。

けれど、事前から信頼できるつながりがある人はそうそういません。
また、事前に関係を築けたとしてもその人から得られるのはその人が「経験した」「学んできた」事柄に関する一側面でしかない場合が一般的です。そのような場合はどうしても「別の側面からの情報」はギャップとしてとらえられてしまうでしょう。

情報の差からくるギャップを防ぐためにも、組織として最大の新人ケアは、アドバイスを求められる先をなるべく多く、様々な環境や立場から提供してあげることではないでしょうか。

頼れる先がいない・頼れる先がひとつしかないというのは、どんな立場であってもつまづきやすいもの。様々な情報の入手先や関係性を持つことが、新人自身を「頼れる先」に変えていくのだと考えています。
  

〔 参考文献・関連リンク〕

初出:2021年04月09日

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