人事・労務担当者のためのメンタルヘルスケアコラム:たまった気持ちも大掃除!「忘れる技術」を駆使してストレスの棚卸をしよう

たまった気持ちも大掃除!「忘れる技術」を駆使してストレスの棚卸をしよう

みなさんは「忘れっぽい」と言われることはありますか?
記憶する能力が高い方は経験からの学習効率が高く、仕事や勉学で活躍することが多いでしょう。逆に「忘れっぽい」と日常生活でも困る場面が多く、メモを取ったりと対策をされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

現代社会ではマイナス要素にされがちな 「忘れっぽさ」 ですが、実はストレスの多い環境では「強み」にもなるのです。

今回は、その「忘れっぽさ」のポジティブ面やメンタルヘルスに生かす方法をご紹介します。
 

忘れられる人=悩みの種を手放せる人

「忘れる」というのは「あるものを思い出せなくなる」ことです。

心理学では、「記憶」は『覚える・維持する・思い出す』の3ステップによって構成されています。この3つのステップのうちどれかにエラーが出ると「忘れる(思い出せない)」ということになります。

嫌な思い出というのはなかなか忘れられないもの、これは思い出自体が「一連の出来事」に「その時の感情」が結びついたまま記憶されてしまっているためです。「感情」に関する記憶は維持する能力との結びつきが強く忘れづらいため、「思い出すたび嫌な気持ちになる」ループに陥ってしまうのです。

これまで人類が厳しい環境で生き抜いてくるために、「避けなければならないこと」として恐怖や危機を感じた経験をより忘れにくくする能力を持ったからだという説もあります。

嫌な思い出を何度も反復するたびにストレスを重ね、逆にしっかりと覚えてしまう……「忘れる能力が強い人」はこの「嫌な思い出を手放せる人」=【理不尽なストレスに対して耐性が強い】側面を持っていることにもつながります。

心の中にたまってしまったストレスから、励みになるものを抜き出して嫌なものを「忘れる」ことでまたストレスを受け止める余裕を確保する。
いつもポジティブな方は、この【 心の棚卸 】がうまいのかもしれません。
 

「忘れられる」=克服力・切り替え・効率化の向上にも。
嫌な思い出を成功体験の積み重ねに変換

忘れることは「嫌な思い出を手放せること」と前述しましたが、これは「思い出(経験)」と「感情(苦手意識)」を切り離すことにも関連します。

意識的に「忘れる」という選択ができれば、以下のような「忘れる」ことのメリットを生かすことができるでしょう。
 

苦手・嫌なものを忘れることで“ 克服力 ”を向上

仕事上 発表やプレゼンなど緊張するイベントは避けられないもの、以前に一度失敗したという記憶があればその緊張や恐怖感もひとしおです。

何度も緊張と失敗を繰り返すことで苦手意識が生まれ、実力を発揮できなくなってしまう。「忘れる」というのはこの【苦手意識】にも有効です。

「忘れる」ことで恐怖感や意識を分散させ、必要以上の緊張や前回の記憶を薄めることができれば普段通りの実力も発揮しやすくなるのです。

成功体験・無事に乗り換えた経験を積み重ねることによって、失敗体験を「自分はできる」という自信と「できた」という達成感を伴う経験で上書きすることができます。
 

必要な行動とモヤモヤを切り離して「シフトチェンジ」

プライベートでショックな出来事があったり、仕事上で大きな失敗があると「仕事が手につかない」状態になってしまった方も多いかと思います。業務上で支障が出るのはもちろん、ずっと落ち着かないというのも本人にとってつらいものでしょう。

「忘れる(思い出せない)」といってもその状態は様々、完全に「思いだせない」だけでなく「この時間・期間だけ忘れる、置いておく」という機能もあります。

一時自分の感情やモヤモヤを忘れて集中する、仕事の間は辛い状況から離れて業務に集中するという時間を設けることは「ショックからの回復」や「つらいと感じる時間から離れて、心を休める」という役割もあります。
 

感情に惑わされないで業務や情報の集中・効率化を

テストや締め切りが迫った仕事があるとつい部屋の掃除や遊びの予定を入れてしまう……なんて経験はありませんか。

人間の脳には「防御機構」という、つらい状況や不安から心を守ろうとする機能が生まれつき備わっています。特に事前に嫌なことが待ち構えていると業務や目的と全く関係ないことをし始めてしまう「逃避」は時間も体力もとられてしまいます。

嫌なプレゼンや会議があるとどうしてもだらだら居残ってしまう……というのは避けたいもの。このような「逃避」は最近の研究で「不安や焦りから 衝動性が強くなってしまうため、目の前のささいなことに集中してしまう」というメカニズムが解明されました。

不安や焦り・恐怖感を感じていてもいったん忘れることができれば “目的のためのTODO” に集中するをこなすハードルも下がります。
 

忘れるためには「覚える、の逆」を
スキルとしての「忘れる力」を獲得しよう

記憶力は筋肉のように自分で意識して切り替えたり動かしたりということは難しいですが、自分の行動である程度方向性を決めることは可能です。

忘れるためには「覚える」メソッドの逆を使うこと。

覚えることと同じように徐々に、ゆっくりではありますが「意図的に忘れる」スキルを身に着けて、ストレスに対する“耐性”を培いましょう。
 

「繰り返さない」=思い出さない

嫌な思い出や経験が長く残ってしまうのは、ついつい思い出してしまったりと自分の中で「反復」してしまうから。

学習やトレーニングなどでも重要視されるように、【覚えるためには繰り返し反復することは重要】なのです。気になるから、思い出してしまうから……とついつい「あの時」を思い出してしまうと、そのたび嫌な感情を思い出してストレスになるとともに、脳が「この思い出は重要なんだ」と長期記憶に定着させてしまうのです。

このメソッドを逆手にとって、忘れたいことは「ノートなどに書き出し、それ以上触れない」というルールを作りましょう。

書き出す際は「あの時、これがつらかった」「自分はこうおもった」と自分の感じた内容を中心に据え、一度書いたものは同じページに書かないようにします。
嫌な思い出を思い出したくなったときは、「あれはもう書いたから【すんだこと】」と思い、ほかに集中できることを始めたり休憩を挟むなど思考から気をそらしましょう。

ノートに書きだすことで、自分の体験を「他人目線」でとらえることができ、しっかり思い出さなくてはならなくなった時でも感じるストレスは少なくなります。

気をそらすことが習慣化すれば、ぱっと思いつくだけ、でとどめられるようになりそのうち短期記憶として浮かんでもすぐに忘れることができるようになるでしょう。
 

受け止めるダメージを軽くするワンクッション
「吐き出す」「笑う」「共有する」

繰り返さないようにしても、どうしてもショッキングな出来事は記憶に残ってしまいがち。それが予想していないタイミングであったり、初めての体験だったり、突然に起こるもの・驚きや悲しみ、怒りを感じるものであれば心の動揺は強いでしょう。

その場合、記憶の内容にとても強いショックが伴うため自分で反復して記憶したものと違い一回・一度で記憶が定着してしまうことがあります。また関連した人や場所、その出来事を連想させるものに反応して記憶が突然浮かんでくるといったことも。
通勤などで事故に遭いそうになった、プレゼンで酷評された……などはかなり強いイメージをもって記憶に残りがち。それがもとで「通勤に使う道を通るとドキドキする」「プレゼンの参加者に会うと体調を崩す」と日常の行動が制限されたり思いもかけない瞬間にストレスを受けてしまうのは困りますよね。

記憶に残りやすいショックなことがあった時、ショックを和らげられると記憶の定着率や思い出した時のストレスを軽減できます。

感じたことや何が起こったのかを信頼できる人に聞いてもらうことは、出来事を自分の外側に吐き出し冷静に見ることができるきっかけになります。話を聞いてもらうことで慰めにもなり、受けたショックも和らぐことでしょう。
少しレベルが上がりますが、その出来事を「書き出す」「物語や報告書にしてみる」といったことも効果的です。

また、インターネットなどで同じような体験をした方の感想やお話を調べることもいいでしょう。「みんなが経験していることだ」「自分がそう感じただけではないんだ」と思うことは自分の感情を肯定することで安心感を感じられます。

他愛ない失敗や笑い話になるような経験ほど、「忘れる」力は強く働きます。
なるべく「感情はしっかり感じる、けどとらわれない」「出来事は簡単に、思い出してすぐに忘れる」ように心がけていきましょう
 


人事や評定でマイナスとされがちな「忘れっぽさ」は、ポジティブシンキングに通じる大事な才能でもあります。業務内容や伝え方、記憶の定着までもっていくプロセスが確立するまで時間がかかりますが、その強さはこれからの社会で求められるものかもしれません。

また逆に、プラスの評定を受けてしまいがちな方でもその「気が付く」才能のためにいろいろな辛さを背負っている場合も。

いつも悩んでいて苦しそう、ずっと失敗を気にしている方がいるなら、一緒にお話しされてみてはいかがでしょう?
 


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初出:2019年11月12日 / 編集:2020年12月17日

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