いま求められる「心理的安全性」の高い職場づくり:人事・労務担当者のためのメンタルヘルスケアコラム

いま求められる「心理的安全性」の高い職場づくり

「心理的安全性」をキーワードに職場環境改善に取り組む企業はここ数年で増えています。
心理的安全性を高めることは、従業員の心身の健康を守るために限らず、企業のパフォーマンスの向上や離職率の減少などにつながることがわかってきました。

皆さまは「心理的安全性」とは何か、ご存じですか?
パワハラ防止法への対応義務化、多様な働き方の推進など働きやすい職場づくりが求められる中、人事労務担当者がこのキーワードを正しく理解することはとても重要になってきます。
 
今回は、よりよい職場環境を整えるために、企業が心理的安全性に注目するメリットや取り組みの方法ついてご紹介いたします。
 

心理的安全性とはなにか

心理的安全性とは、「率直に発言したり懸念や疑問、アイデアを話したりすることによる対人関係のリスクを人々が安心して取れる環境」を指します。つまり、空気を読んだり上司や同僚の顔色をうかがわなくても、安心して提案や発言、ときには批判的な意見を伝えることのできる状態です。
 

心理的安全性:

心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じていません。自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる余地があります。

引用:Google re:Work「効果的なチームとは何か」を知る
 

心理的安全性という言葉を最初に用いたのは、組織学習の研究・教育を続けるエイミー・C・エドモンドソン教授(ハーバード・ビジネススクール)です。のちに米Google社が「チームの生産性を向上させるためには心理的安全性が最も重要な要素のひとつ」だと発表したことで、注目を集めるようになりました。
 
心理的安全性が確保されている職場では、周りと違う意見を伝えても「罰せられたりしない」と信じることができ、不安や心配に怯えて本当の意見を押し込めてしまうことなく、安心して発言することができます。
 
ここで誤解のないように注意が必要なのは、一致団結していてまとまりのある・皆が同じ方向を向いている職場や、「感じがよい」「誰かがいつも相手の意見に賛同する」など雰囲気のよい(当たり障りのない)職場環境のことを指すのではないという点です。
特に日本文化内によくみられる「空気を読む」や忖度とは正反対の状態といえます。

・上司や相手の顔を立てる
・もしも何か疑問を呈するときは確実なデータ・確証がないといけない
・率直な意見を言うと煙たがられたり出世に響くかもしれないのでできるだけ避ける

……など、これらの例を聞いて「当たり前のことではないのか?」「社会人として常識だ」と感じて日々仕事をしているとしたら、それは心理的安全性が低い職場環境であるといえるでしょう。
 

心理的安全性が低いとどうなる?

心理的安全性が低い組織には次の「4つの不安」が存在しているといいます。

・IGNORANT (無知だと思われる不安)
・INCOMPETENT (無能だと思われる不安)
・INTRUSIVE (邪魔をしていると思われる不安)
・NEGATIVE (ネガティブだと思われる不安)

(エイミー・C・エドモンドソン教授「TED x Talks」でのスピーチより)
 

こんな質問をしたら【無知だと思われる】のではないか、ミスや失敗をした時に周囲から【無能だと思われる】のではないか、チームの仲間から鬱陶しい・【邪魔だと思われる】のではないか、否定的・消極的な意見を言うと【ネガディブだと思われる】のではないか……などという不安がつきまとうのです。

これらの不安は、組織やチーム内の活気や、従業員のモチベーションにも大きく影響します。ハラスメントなどの問題が隠されていることもあります。また、発言や質問すること、指摘することに対する不安や抵抗感が風土として浸透していると、個人のモチベーションの問題だけでなく「正確な情報伝達」が行われにくくなるという研究があります。ミスや失敗に関する報告・新しいアイデアといった発言、業績や危険性の指摘などが正確に伝えられるかは、意見を言える雰囲気……組織の心理的安全性という「基礎」がしっかりと構築されているかどうかがキーポイントだと考えられるでしょう。言い換えると、職場の安全を守るための「報・連・相」が、心理的安全性が低い環境では適切に行われず、結果的にリスクが増してしまう危険性をはらんでいるともいえます。
実際に「ある病院の優秀な医療チームは、その他の一般的なチームの倍ミスの報告が記録されている」という報告も見られています。
 
エドモンドソン教授によれば、「率直であること、建設的に反対したり意見を交換したりできること」がポイントで、心理的安全性があれば、たとえ上司や部下、同僚と意見が異なっても「自分の評価が下がるのではないか」「こんな初歩的な質問をしたら〇〇と思われるだろう…」などと不安を抱く必要はなくなり、その結果、活発な意見交換が生まれるといいます。
 

職場の心理的安全性を高めるメリット

心理的安全性を高めることができれば、職場内のコミュニケーションが活発になり、離職率の低下、モチベーションの向上などのメリットがあります。
 

<職場の心理的安全性を高めるメリットの一例>
・職場のコミュニケーションが活性化
・ワークエンゲージメントの向上
・高パフォーマンスの促進
・離職者の減少
・多様な人材・有能な人材が集まりやすくなる
・自己肯定感が高まる(自信のなさを克服しやすくなる) など……

 
実際にGoogle社の調査によると、「心理的安全性の高いチームのメンバーは、離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、マネージャーから評価される機会が 2 倍多い」という特徴があったことがわかったそうです。
逆を考えると、どんなにポテンシャルの高い、企業の業績に貢献できる力のある人材を採用しても、企業内・チーム内の心理的安全性が低ければ、その力を発揮することができず、結果的に有能な人材の流出や士気の低下などにつながる場合も多いということです。心理的安全性は企業の生産性や職場環境づくりの土台となる、いわば基礎工事の部分なのです。
 

心理的安全性を高めるために、職場環境改善のすすめ

では、職場の心理的安全性を高めるにはどうしたらよいのでしょうか。
まず欠かせないのは、リーダーやマネージャーとなる立場の方が心理的安全性を正しく理解し、率先して土台をつくることだということが、複数の研究により明らかになっています。調査にもとづき提案されている具体的な方法を見てみると、次のような点が心理的安全性の高い職場づくりのカギとなっているようです。
 

・コミュニケーションを密にすること
・仕事をフレーミングすること(心理的安全性の枠組みづくり)
・理解を示すこと
・対人関係/意思決定において相手を受け入れる姿勢を示すこと

 

普段からコミュニケーションを積極的にとることは、お互いにより心地よく話せる関係性を築くために大切です。コミュニケーションが増えることで強みも弱みを見せやすくなりますし、心理的安全性が高まると「自信のなさを克服しやすくなる」こともわかっています。問題やリスクに気づいた際に、躊躇うことなく率直な意見を伝えやすくなります。

また、失敗するのは個人の能力不足が原因ではないことや、完璧・確実なものなどないこと、本当のリスクや共通の目標などを浸透させる枠組みづくりがまずは必要となるでしょう。さらに、感謝の気持ちを示す、相手の話に耳を傾ける姿勢、受け入れようとする態度や言葉遣いなど、人の話を妨げないこと、もし妨げようとする人がいたらそれをたしなめること、問題ではなく解決策に焦点を当てるなどといった、互いを尊重し受け入れる姿勢が社内・チーム内の「共通のものとなる」ことが求められています。
意思決定の基準・根拠の透明性や、メンバーが意見を伝える機会・定期的なフィードバックも大切です。

このような土台のうえに、安心安全な環境のなかで率直な発言ができ、従業員がお互いにその能力を発揮しながら働くことができる、心理的安全性の高い職場をつくることが可能になるのです。

このほか、心理的安全性を高めるために必要なことについて、さらに詳しいヒントはGoogle社のre:Workやエイミー・C・エドモンドソン教授の著書の翻訳版が出ていますので、下記参考文献・関連リンクをご確認ください。

職場の心理的安全性を高めるには、まずはこのような土台づくりに取り組むことから始める必要があります。
 


ここまで、いま注目されている心理的安全性とはなにか、企業が心理的安全性を高めるメリットやその土台について考えてきました。心理的安全性について、少しはイメージできましたでしょうか。

お気づきのとおり、心理的安全性の高い職場づくりを目指すためには、人事労務ご担当者の皆さまのご尽力だけでは難しく、管理職やチームリーダーなど社内の多くの方々に理解が浸透していく必要があります。

しかし、とはいっても具体的に何からはじめたらよいのか、何をどう取り入れることで職場環境改善ができるのか、特に管理職向けの研修の導入などはなかなか言い出しにくい……きっかけが掴みづらい……との声も、実際にお聞きします。

そこで、当社では以下のような流れで、心理的安全性の高い職場づくりのために職場環境改善に取り組むことをおすすめしております。
 

→ 職場環境改善のコツは、まず「周囲に改善の必要性を理解してもらう」ところからはじめましょう!
→ 現状の把握と改善の必要性の説明には、毎年実施しているストレスチェックが活用できます!
→ 株式会社情報基盤開発のセミナーなら集団分析の読み方や活用のポイントなど、職場環境改善の基礎からコツまで1時間でわかりやすく解説いたします!

 
当社で6/21(火)に実施した「職場のメンタルヘルス対策」オンラインセミナーでは、日本産業ストレス学会で理事長を務める北里大学医学部の堤明 純教授をお招きし、メンタルヘルス対策のエビデンスと注目されているコンセプト、エビデンスを現場で使えるようにするための指針などについて解説していただきました。
(「M-ORIONプロジェクト」、2023年秋・産学連携でスタート予定)
 

 

 

実際に効果が期待される、心理的安全性の概念を取り入れた管理職教育プログラムや、ポジティブ心理学を取り入れた従業員向けの研修などを含めた職場のメンタルヘルス改善プロジェクトについて触れられていますので、併せてご参考になれば幸いです。
 

〔参考文献・関連リンク〕

初出:2022年06月28日

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