ストレスチェック業種・職種別レポート2018:福祉業

福祉業では男性従事者のメンタルヘルスに要注意!

【ストレスチェック分析レポート2018】
福祉業

近年、高齢者・障害者・児童福祉サービスの需要が高まっていますが、これらのサービスに従事する労働者の職業性ストレスが懸念されています。

厚生労働省が発表した「平成28年度 過労死等の労災補償状況」では、平成28年度において精神障害による労災請求・支給件数が最も多かった業種は「社会保険・社会福祉・介護事業(請求件数:167件、支給件数:46件)」となっています。

また、職種別ランキングにおいても、「介護サービス職業従事者(請求件数:6位・82件、支給件数:9位・20件)」、「社会福祉専門職業従事者(請求件数:11位・45件、支給件数:10位・17件)」が上位に入っています。

当社は、「AltPaperストレスチェックキット」をご契約いただいたお客様に個人情報を除いた集計データをご提供いただき、業種別・職種別・男女別に高ストレス者の割合・総合健康リスクを算出しました。今回は、「保健衛生、社会保険・社会福祉・介護事業」従事者のストレス度合い・ストレス要因とメンタルヘルス対策をご紹介します。
 

福祉業のストレスに関する調査結果

福祉業の高ストレス者の割合:業種別高ストレス者の割合・総合健康リスク調査結果
業種別高ストレス者の割合・総合健康リスク(福祉業)

~働きがいを感じていても、高ストレス者の割合は10%以上~

保健衛生、社会保険・社会福祉・介護事業では、男性の高ストレス者の割合が約15%に及び、総合健康リスクも全国平均を上回りました。一方、女性の高ストレス者の割合は約10%と全国平均並みで、総合健康リスクは全国平均を下回る比較的低い数値となりました。

さらに職種別に見ると、介護サービス職業従事者(介護職員、訪問介護従事者)は、男女共に総合健康リスクが全国平均を上回るという結果が出ました。高ストレス者の割合については、女性の数値は全国平均並みであるのに対し、男性の数値は15%を超えています。

また、介護サービス職業従事者以外の職種についても男女間で差が見られました。

まず、男性については、ほぼ全ての職種で総合健康リスクが全国平均を大幅に上回っており、高ストレス者の割合も15%前後と高めの数値が出ています。一方、女性については、事務従事者の高ストレス者の割合が全国平均を上回っていることを除けば、高ストレス者の割合・総合健康リスク共に全国平均を下回っています。

つまり、保健衛生、社会保険・社会福祉・介護事業は職種を問わず、特に男性のメンタルヘルスの不調を招きやすい業種であると推測されます。
 

1.調査方法

男性と女性のデータを分けて、各尺度の平均得点・高ストレス者(※[1])の割合・総合健康リスク(※[2])を算出しました。その後、業種別・職種別・施設サービス種類別の平均値を算出しました。
———————————–

※[1] 本分析における「高ストレス者」は、厚生労働省のマニュアル(2015)に基づいており、以下の①および②に該当する者を指す。①および②に該当する者の割合については、概ね全体の10%程度とする。
①「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が12点以下
②「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が17点以下で「仕事のストレス要因(17項目9尺度)」および「周囲のサポート(9項目3尺度)」の合計が26点以下

※[2] 「健康リスク」は、基準値として設定された全国平均(100) からどの程度乖離しているかで算出される。また、健康リスクの数値を表す「仕事のストレス判定図」は、量-コントロール判定図と職場の支援判定図の2つをさらに男女別に分けたもので構成される。この2つの調和平均が「総合健康リスク」となる。

◆仕事のストレス判定図
①量-コントロール判定図:仕事の量的負担とそれに対するコントロールの度合い(裁量権)による健康リスク
②職場の支援判定図:上司の支援と同僚の支援の状況・バランスによる健康リスク
 

2. 調査結果

(1)職種別/高ストレス者の割合・総合健康リスク

職種別高ストレス者の割合・総合健康リスク(保健衛生,社会保険・社会福祉・介護事業)
 

保健衛生、社会保険・社会福祉・介護事業(以下、福祉業)の高ストレス者の割合・総合健康リスクを男女別・職種別に見ていきます。

まず、男性についてはすべての職種で高ストレス者の割合が高く、総合健康リスクの数値が全国平均を超えています。特に、医療技術者、保育士、介護サービス職業従事者(介護職員、訪問介護従事者)については、高ストレス者の割合が15%を超えていると同時に、総合健康リスクが110を超えています(全国平均より10%以上高いリスクがあることを示します)。また、看護師(准看護師を含む)、サービス職業従事者(調理人、クリーニング職など)も総合健康リスクの数値が115を超えており、その他の職種を上回る高い数値となりました。

次に、女性については、介護サービス職業従事者のみが高ストレス者の割合と総合健康リスクが共に全国平均をやや上回りました。その他、事務従事者の高ストレス者の割合が全国平均を上回っていることを除けば、どの職種も高ストレス者の割合・総合健康リスク共に低めの数値が出ています。
 

(2)男女別/ストレスチェック尺度別比較

ストレスチェック各尺度(保健衛生,社会保険・社会福祉・介護事業)
 

では、高ストレスおよび高健康リスクを引き起こす生活上・仕事上のストレス要因としては、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?

職業性ストレス簡易調査票における各尺度の平均値が全国データからどれほど乖離しているかを計るために、全国平均値を0とし、1から-1の間に全国データの7割が入るように、正規化数値(※[3])を算出しました。
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※[3]  { (各尺度の値) – (全国平均) }/(全国データの標準偏差)×100を正規化数値と仮定している。
 
まず、男女間で比較すると、ほぼすべての尺度において男性の数値が全国平均並びに女性の数値を下回っていることがわかります。

次に、総合健康リスクの判定に使われる4つの尺度(グラフ赤枠)を見ていくと、男性は「心理的な仕事の負担(量)」「上司からの支援度」の数値は全国平均並みであるのに対し、「仕事の裁量度」「同僚からの支援度」の数値は全国平均を下回っており、これらがストレス要因となりやすいことが見て取れます。一方、女性については、「心理的な仕事の負担(量)」の数値は全国平均を大きく下回っていますが、その他の3つの尺度は全国平均並みもしくは全国平均を上回っています。

すなわち、男性は2つの尺度で全国平均を下回る数値が出ているため、総合健康リスクが全国平均を超える結果になったのだと考えられます。

また、上記の4つの尺度以外については、男女共に「心理的な仕事の負担(質)」「自覚的な身体的負担度」「家族や友人からの支援度」の尺度(グラフ黄枠)で、全国平均を大きく下回る数値が出ています。一方、「職場環境によるストレス」「自覚的な仕事の適性度」「働きがい」「仕事や生活の満足度」の数値については男女共に全国平均を上回っており、やりがいを感じながら意欲的に仕事に取り組んでいることが推測されます。
 

(3)職種別/ストレスチェック尺度別比較

ストレスチェック各尺度(保健衛生,社会保険・社会福祉・介護事業:男性)
 
ストレスチェック各尺度(保健衛生,社会保険・社会福祉・介護事業:女性)
 

次に、ストレスチェックの各尺度の職種別平均値を算出しました。

まず、介護サービス職業従事者に着目します。男女共に、「心理的な仕事の負担(量)」「仕事の裁量度」「同僚からの支援度」の数値が全国平均を下回っています。特に「仕事の裁量度」については、その他の職種と比較しても特に低い数値が出ています。

また、女性に比べて男性は、各尺度で職種間のばらつきが大きいことがわかります。男性について、介護サービス職業従事者以外の職種を見てみると、看護師(准看護師を含む)の「同僚からの支援度」、保育士の「心理的な仕事の負担(量)」、サービス職業従事者(調理人、クリーニング職など)の「上司からの支援度」の数値が全国平均並びにその他の職種の数値を大きく下回っていることがわかります。男性全体として、総合健康リスクは高い数値が出ているものの、その要因は職種によって異なるようです。

そして、(2)男女別/ストレスチェック尺度別比較のグラフからもわかるように、福祉業全体としては、「心理的な仕事の負担(質)」「自覚的な身体的負担」「家族や友人からの支援度」の数値が低くなっています。

「心理的な仕事の負担(質)」については、男女共に保育士の数値が全国平均並びにその他の職種の数値を大きく下回っています。ただし、女性の保育士については、すべての職種が全国平均を下回っていることから、職種に関わらず質的な仕事の負担を感じやすいことが推測されます。

「自覚的な身体的負担度」について見てみると、事務従事者では、男性の数値は全国平均並み、女性は全国平均を大きく上回る数値が出ています。一方、その他の職種では全国平均を下回る数値が出ており、なかでも保育士、介護サービス職業従事者、サービス職業従事者の数値の低さが男女共に目立ちます。

「家族や友人からの支援度」については、保育士の数値は男女共に全国平均以上となっています。一方で、サービス職業従事者については、男性の数値は全国平均を大きく下回っているのに対し、女性の数値は全国平均並みであり、男女間で大きな差が見られました(※「家族や友人からの支援度」については、過去のデータと比較したところ、全体的に悪化傾向にあるようです)。

「自覚的な仕事の適性度」の数値については、男女共に全ての職種が全国平均を上回りました。「この仕事は自分に向いている」と実感している人が多いことが福祉業の特徴であると考えられます。
 

福祉業従事者のメンタルヘルス対策

以上の分析結果から、保健衛生、社会保険・社会福祉・介護事業の従事者のメンタルヘルスに大きな影響を及ぼしているのは、「心理的な仕事の負担(質)」「自覚的な身体的負担度」であることが明らかになりました。
 

  • 「心理的な仕事の負担(質)」とは、高い集中力や知識、技術が必要とされる仕事に取り組むことによる負担を指します。これは、高齢者の生活のサポート等をする福祉業従事者が抱えやすい負担であると考えられます。
  • 「自覚的な身体的負担度」とは、体を動かす必要のある仕事に取り組む場合や残業続きで睡眠時間が不足している場合などに生じる、身体の負担の度合いを指します。厚生労働省によると、平成21年度における腰痛による労災申請の約3割を保健衛生業従事者が占めており、福祉業は他の業種と比較しても労働者に身体的負担がかかりやすいことがわかります。
     

それでは、このような負担を最小限にするためには、どのようなメンタルヘルス対策に取り組めばよいのでしょうか?
 

1.セルフケア

まず、従事者自身が日常的にセルフケアに取り組むことが大切です。特に福祉業の従事者は責任感が強く、努力家の人が多いと思われます。

しかし、疲労が蓄積してしまうと肩こりや腰痛等、体の不調が慢性化してしまう危険性があります。

入浴後にストレッチをする、就寝前の30分間はPCやスマートフォンを使用しない等、自分の中でのルールを定め、日常的にセルフケアを行いましょう。また、仕事とは関係のない趣味を見つけ、休日に友人と楽しむこともお勧めです。

リラックスする時間を作ることは、精神的ストレスの解消、筋肉疲労の軽減に有用です。
 

事業者は、就労体制を整備する等のサポートを

厚生労働省によると、平成21年度における腰痛による労災申請の約3割を保健衛生業従事者が占めていたことがわかりました。本分析でも「自覚的な身体的負担度」の数値の低さが目立ったように、業務の特性上、日常生活にも影響を及ぼしかねない身体の不調が生じる危険性もあると思われます。

したがって、負荷の大きい業務を複数の従業員で行えるよう常勤人数を増やしたり、椅子に座って一息つけるような短い休憩時間をこまめに設けるなど、事業者側が就労体制を整える必要があります。

身体的な負担を減らして余裕を持つことは、心の余裕にもつながります。労働者がやりがいを感じながら、より積極的に業務に取り組めるよう、組織が一体となって職場環境の改善に取り組むことが大切です。

福祉サービスを受けている人達がより質の高いサービスを受けられるよう、まずは従業員の心身の健康に目を向け、働き方に関する意識改革やより良い職場づくりに取り組みましょう。
 

★ポイント★

福祉業に従事している男性は、働きがいを感じていても、高ストレス者の割合が高くなっています。

福祉業の従事者のメンタルヘルスに大きな影響を及ぼしているのは、「心理的な仕事の負担(質)」と「自覚的な身体的負担度」です。

福祉業従事者のメンタルヘルス対策としては、従事者自身がセルフケアを日常的に行うことが役立ちます。

事業者としては、従業員の身体的負担を減らすような就労体制を整備することが心理的な負担を軽減するうえでも役立つでしょう。

質の高いサービスを提供するためには従業員の心身の健康が第一であると考え、働きやすい職場環境を整えましょう。
 

〔 参考文献・関連リンク 〕

初出:2018年06月12日 / 編集:2019年07月31日

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