改めてチェック!ストレスチェック制度:ストレスチェックの結果の閲覧・保管期限

ストレスチェックの結果の閲覧は上司が確認できる?保管期限はいつまで?

1年に1度の実施が義務付けられているストレスチェック。
従業員の心身の健康のため、そして働きやすい職場づくりに欠かせないものです。部下の健康状態は上司として気になるもの、健康状態は仕事に関わってくるため、知りたいと考えている方もいるかもしれません。

ですが、ストレスチェックの結果を上司が確認するのは難しいのが事実です。
では、職場としてストレスチェックの結果の取り扱いはどのようにすればいいのか……
結果の閲覧や会社側が結果を取得した場合の保存期限など、会社として気を付けた方がいいことを紹介します。
 

1.ストレスチェックの実施者とは? 

前提として、ストレスチェックを行える人は労働安全衛生規則で決められています。

(検査の実施者等)
第五十二条の十  法第六十六条の十
第一項の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者(以下この節において「医師等」という。)とする。
一 医師
二 保健師
三 検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が
  定めるものを修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師

労働安全衛生規則

2 心理的な負担の程度を把握するための検査等

(2) ストレスチェックの実施者として、医師、保健師のほか、厚生労働大臣が
  定める研修を修了した看護師又は精神保健福祉士を規定したこと。
また、 ストレスチェックを受ける労働者について解雇、昇進又は異動
(以下「人 事」という。)に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者
は、ストレ スチェックの実施の事務に従事してはならないものとした
こと。(第52条 の10関係)

基 発 0 5 0 1 第 3 号 労働安全衛生法の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令等の施行について(心理的な負担の程度を把握 するための検査等関係)

この規則で決められているとおり、ストレスチェックを行う(実施者になる)には、医師・保健師、および必要な研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理士といった国家資格が必要になります。
実施者は企業のメンタルヘルスや従業員を取りまく職場環境などを総合的にみて高ストレス者が誰かを判断するため、心身に関する一定以上の知識が求められるのです。

また「従業員に対して直接人事権を持っている者はストレスチェックに関する業務に従事できない」とも定められています。
直接の人事権を持つ人とは、解雇・昇進・異動に関して権限を持つ監督的立場にある人のことです。総務や従業員の所属する部署の責任者などは実施に関する業務には携わることはできません。
逆に、人事を担当する部署でも権限を持たない人は直接の人事権を持つ人にはあたりません。実施事務従事者・制度担当者としてストレスチェックを円滑に行うための業務や事務作業に関わることができます。

ストレスチェックの結果は、個人情報が多く含まれており、従業員としてはむやみに公開されたくない情報です。
そのため労働安全衛生法及び個人情報保護法より、「ストレスチェックを行う人・ストレスチェックの事務に関わった人は、仕事で知りえた情報を漏らしてはいけない」と守秘義務が課せられます。
実施者・実施事務に携わった方はたとえ上司から求められても、本人の同意がない限り結果や情報を教えることはできません。
 

2.ストレスチェックの結果の取り扱いについて

ストレスチェックの結果の扱い方にはさまざまな決まりがあります。

  • 通知方法は「本人のみが閲覧できる」方法で
  • 結果は「本人の同意がなければ」他の人に知られない
  • 高ストレス者は医師による面談を受けられる
  • 5年間の 保管が義務
  • 集団分析なら企業や上司も見てもOK

それぞれについて確認していきましょう。
 

*通知方法は「本人のみが閲覧できる」方法で

ストレスチェックの結果は検査を行った人から従業員本人へ伝えられます。

❝第五十二条の十二 (検査結果の通知)
事業者は、検査を受けた労働者に対し、当該検査を行つた医師等から、遅滞なく、当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。❞

労働安全衛生規則

また、ストレスチェックの結果は本人の同意なく会社側に報告されません。

第六十六条の10
❝事業者は、前項の規定により行う検査を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該検査を行つた医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。この場合において、当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない。❞

労働安全衛生法

ストレスチェックは健康診断の結果と同様の【健康にかかわる個人情報】です。
プライバシー保護のため、検査の結果は封をした文章や電子メールなどで直接従業員に届くように、結果を本人以外が知りえないように方法を考えましょう。
 

*結果は「本人の同意がなければ」他の人に知られない

部下思いの方は部下のことが心配でストレスチェックの結果が気になってしまうでしょう。 特に体調が悪そうな部下を抱える方は、職場環境が負担になっていないか気にかかるかもしれません。

しかし、上司や会社の人員に直接個人の結果が伝えられるということはまずありません。
結果を確認できる実施者や実施事務従事者には人事権のある従業員は、ストレスチェックの実施に関わる業務・作業に関わることができないからです。

ストレスチェックの結果から一定の条件にあてはまった「高ストレス者」は、医師による面談を受けられます。
専門的な所見や医師の意見書の提出が行われますので、それを参考に職場改善を行うことが最良の「心配り」となります。
 

*高ストレス者は医師による面談を受けられる

ストレスチェックの結果、高ストレス者という判定の出た従業員は医師の面談を受けられます。

具体的には
・ストレスチェックで高ストレスという結果が出ており、
・面談が必要だと、実施者が判断した
以上の2点を満たした従業員が「高ストレス者」として面接対象となります。

高ストレス者という通知を受け取った従業員は、申し出れば「医師との面接」を受けることができます。面接では、ストレス状態や生活に関する確認や診断を受け、生活に関するアドバイスや専門的な提案を聴くことができます。


医師の面談の条件にあてはまる従業員が面談を希望したとき、面談の実施は企業の義務となっています。
申出があってから概ね1月以内に面接が実施されるよう、企業は手続きや社内調整を行う必要があります。費用など面接にかかる諸経費は企業側の負担です。実施する日時なども原則就業時間中に設定しましょう。

面談の後、従業員のために必要な対策があるか医師の意見を聴くようにも法律で決められています。
面談を行った医師からは企業へ「意見書」が提出され企業はそれをもとに職場や就業内容の改善を行わなければなりません。

また従業員から面談の希望があった時、会社側はその従業員の同意を得て、面談の対象の条件を満たしているか確認することが可能です。
面談を希望した従業員が条件に該当するか確認する目的ですが、ストレスチェック結果や本人の同意を取り扱うため、 面接の希望を受け付ける窓口・担当者を 実施事務の一つとしてストレスチェックの実施者・実施事務従事者に行ってもらうことが望ましいです。
 

*ストレスチェックに関わる情報は5年間保管

高ストレス者が面談の希望を申し出た場合、企業側は面談の希望者や対応内容、意見書を記録し保管しておかなければならないという義務があります。
保管期限は5年間、適切でセキュリティが確保された保管場所と保管方法の下で管理されます。

面接を希望する従業員から提出されたストレスチェックの結果や、その他職場改善などに使用するため同意をとって提供してもらったデータなども同様に保管義務の対象となります。
受検者の同意をとっていない分析結果など実施者のみが閲覧できるデータについては、実施者の管理のもと5年間保管するのが「望ましい」とされています。この場合も企業は適切な保管がなされるよう必要な措置や対策をとらねばなりません。

ストレスチェックの結果は健康診断の結果や身体情報と同じ「要配慮個人情報」にあたります。
5年間というと長く感じますが、保管は大事な義務です。毎年の実施に合わせて保管の方法や状況を見直しましょう。 

参考: 「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項
 

*集団分析や加工したデータなら企業も閲覧OK

ストレスチェックの目的の一つに、「職場のストレス環境や要因の改善」があります。
厚生労働省の発表したストレスチェックマニュアルでは、企業に「ストレスチェックを行った結果を用いて集団的な分析を行う」という努力義務が設けられました。

集団分析とは、同じ、または似ている職場環境・職務・条件……など共通項を持つ受検者のデータをまとめて、どのようなストレスの傾向があるか比較する分析です。これは会社全体だけでなく、部や課といった職務内容、男女や年齢といったその人の属性など様々な切り口で行うことで、ストレスの原因や対策を考えることが可能になります。

集団での分析結果は実施者しか見ることができないのでしょうか?
集団分析では個人を特定できないため、企業・人事権がある方も含め、職場の全員がみることができます。会社側へ報告するにあたっても従業員一人ひとりの同意は必要ありません。

しかし、同意が必要ないのは「10名以上の個人が特定できない集団分析」の結果のみです。
分析対象となる集団の合計人数が10人未満であるなど、結果から従業員が特定されるおそれのある場合、その集団に所属する受検者全員の同意を得ないと会社側に分析結果を渡してはいけないという決まりになっています。
集団分析を行う際の切り方、分析方法に注意しましょう。

またストレスチェックの結果による集団分析を行った場合の記録も、5年間保管することが推奨されています。

職場環境をより良くするための情報が詰まっているストレスチェックの集団分析結果。
得た情報を活かして一人ひとりの従業員がより働きやすい環境を作ることに活用してみてはいかがでしょうか。
 

ストレスチェックでやってはいけない「不利益な扱い」とは? 

会社側は従業員に対して、ストレスチェックの結果や実施後の面接指導を希望したことを理由に不利益な扱いをしてはいけません。

・ストレスチェックを受けないことを理由に懲戒処分を受けた。
・ストレスチェックの結果提供に同意しなかったため、減給された。
・高ストレス者なのに面接の申し出をしなかったため、契約更新を打ち切られた。
・医師の面接指導を受けたのに、意見書を無視して配慮や改善が行われない。
 または職務などが悪化した。
・面接結果や意見書を提出したら、相談や同意なしに配置や所属を変更された

などが従業員の同意や事前の理由説明のない、「不利益な扱い」に当たります。

現代社会では誰でもストレスは抱えることがあります。
休職や心身を壊してしまう前に予防・改善していくことがストレスチェックの目的です。安心して不調やメンタルに関する相談ができるよう、テストの結果をもって従業員の扱いを悪くするようなことはしてはいけません。
 


ストレスチェックの結果は重要な個人情報です。
実施者になれる人や結果の通知方法、 従業員が安心して回答できるためにプライバシーへの配慮についてもさまざまなルールがあります。

社内では法律や規則のとおりルールを守り実施することが難しいと考えることもありますよね。そのような場合は外注するのも1つの方法です。
確かにコストは発生しますが、社内での手間や法令に関する不安は軽減し、社内の人に結果を知られるかもしれないという従業員の不安も解消できます。

外部委託する場合はプライバシーマークを取得しているなど、実際にセキュリティやプライバシーに関する配慮のノウハウがある企業がおすすめです。

 

〔 参考文献・関連リンク 〕

初出:2019年8月21日 / 編集:2023年04月18日

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