キングコング梶原さんが「飛んだ」心身症とは?しくじり先生で語った失踪事件の精神医療的考察

   

キングコング梶原さんが「飛んだ」心身症とは?しくじり先生で語った失踪事件の精神医療的考察

【職場のメンタルヘルスケア】CASE STADY

「YouTubeチャンネル登録者数100万人」突破!
YouTube配信や「しくじり先生」で語った失踪事件も話題

キングコング梶原さんの場合 ──

吉本興業所属のお笑いコンビ「キングコング」の梶原雄太さんは、自身のYouTubeチャンネル『カジサックの部屋』での映像配信をはじめ、ここ最近は『しくじり先生』などのTV番組でも、自身の「心身症」による失踪体験を赤裸々に語って話題となっています。
 

結成後すぐに、異例の急スピードで注目を集めた「キングコング」

キングコングの結成は1999年9月。
梶原さんと相方・西野亮廣さんのコンビ結成秘話については省きますが、吉本興業の養成所「NSC」在学中の身で既に注目を集めていた2人は、翌2000年に結成5カ月の研修生にもかかわらず特例で出場した「NHK上方漫才コンテスト」において最優秀賞を受賞。その後も著名なお笑いコンテストで数々の新人賞をさらい、更に大会史上最短の2年3カ月で「M-1グランプリ2001」決勝進出を果たすなど大躍進。同年に始まったお笑い番組『はねるのトびら』に先輩陣に交じってレギュラーメンバー入りするなど、その後の活躍は皆さんもご存じのことと思います。

『はねるのトびら』は当初1年間の放送(第1期)を終え、半年間の休止期間を挟んで約11年半続いた番組ですが、梶原さんの失踪事件は2003年2月、番組第2期スタートを発表した直後に起きました。
 

本人は自覚症状があるも虚勢を張り、西野さんも手を焼いていた。
そして、「飛んだ」──

結成3年弱の若手ながらTV・ラジオでレギュラー番組9本を抱え、大阪・東京を行き来する人気のお笑いコンビとして、キングコングの2人は休みなく目まぐるしい日々を送っていました。

『はねるのトびら』では相方の西野さんがリーダー役に抜擢され、収録現場は絶えずピリピリしたムードの中で梶原さんは先輩陣たちに揉まれながら、思うように笑いが取れずプレッシャーに押しつぶされそうになっていたそうです。

『はねるのトびら』の収録は、「絶対に眠れない」完全徹夜の状態で東京のスタジオに2日間こもり、収録終わりは日付が変わった深夜。そこから反省会を兼ねた打ち上げが始まり、始発で大阪に戻って昼からの生放送番組のリハーサルに臨んで…という過酷な状態が続いていました。

梶原さんは失踪する半年ほど前から様子がおかしくなっていたようで、移動中の新幹線で手の震えが止まらず、番組収録直前までトイレにこもって出てこようとしない梶原さんを西野さんが無理やり連れ出すこともあったとか。それでも梶原さんはマネージャーや周囲に症状を悟られないよう、虚勢を張り、相談することなく隠し続けました。

そんな中、ラジオ番組収録を終えた深夜、宿泊先のホテルに戻る際に「お疲れ」と声を掛けた後に梶原さんがあらぬ方向に歩いていく姿を目にした西野さんは「ヤバそうだ」と感じたといい、翌朝の番組ロケに梶原さんは姿を見せることなく、連絡がつかないまま3日間行方知れずとなりました。
 

※参考:カジサックの部屋【登録者90万人記念】
キングコング西野さんが部屋に来てくれました
 

先輩芸人や、母親、西野さんやマネージャー…
周囲が支えた梶原さんの復帰

西野さんはマネージャーに前夜の様子を告げて「しばらく戻ってこないかもしれない」と話し、その後に吉本興業は「キングコング梶原、体調不良で活動休止」を発表。レギュラー番組はラジオ番組1本を残して次々に終了していったそうです。

マネージャーと西野さんは今後の対策を相談し合った結果、「(梶原さんを)待っても戻ってこないかもしれないけれど、待たずに(西野さんが)一人でやったら、居場所がないと感じた梶原さんは確実に戻ってこない。だから、しばらく待とう」という結論に達したといいます。※
 

一方の梶原さんは、携帯電話の電源を切ったまま一人で3日間、カラオケボックスにこもって周囲との連絡を一切絶っていました。ラジオ放送を終えた後からカラオケボックスまでどのように行ったか記憶がなく、どうにか3日目にして家族にだけは連絡をと携帯電話の電源を入れた直後、先輩のFUJIWARA藤本さんから電話が入って連絡を絶っていたことを怒鳴られ、藤本さんの自宅に呼び出されて「とにかく休め」と親身に心配されて「救われた」といいます。
 

※参考:カジサックの部屋 FUJIWARA藤本さんに
”ひな壇”の生き残り方を教えてもらいました
 

それでもしばらくTVを観ることなく情報を遮断し 、芸人を辞めたつもりで吉本興業とも連絡を取らずにいたそうです。 2カ月が過ぎようした時、梶原さんの母親が代わってマネージャーと連絡を取り合っていて「西野さんが待っている」ことを知らされ、決意を固めた梶原さんは「謝りに行ってもいいか」とメールを入れて西野さん宅を訪問。西野さんは上半身裸でキャップを横かぶりにギターを持って部屋の奥で座ったまま「久しぶり」と梶原さんを明るく迎え入れ、「悪かった」と土下座する梶原さんにギターを鳴らして二つ返事で「ええで」と許したそうです。

その後すぐ、梶原さんは2003年5月に『はねるのトびら』に復帰するのですが、西野さんやマネージャー、母親、先輩芸人らの支えがあってのこと、と話しています。

梶原さんはその当時のことをバネにして自ら笑いに変え、2018年9月に始めたYouTubeチャンネルは1年足らずで登録者数100万人を突破し、新たな躍進を遂げています。
 

~PSWからの「職場のメンタルヘルスケア」提言~

活躍できる復帰は「自覚」と「原因の理解」から

PSW(精神保健福祉士)の立場で、今回のケースを振り返ってみましょう。
 

* * * 心身症とは? * * *
心身症とは「ストレスが関わっている身体症状」を指す言葉です。
本人の受けたストレスが引金となっておなかが痛い・頭痛がするなど実際に「体に症状が現れる」のですが、原因がストレスのため検査をしても異常が見つからない・普通の治療を行っても改善しにくいことが一般的です。

主に訴えられるのは 頭・腹部・手足の痛み、胃もたれや吐き気・下痢、全身のだるさですが、 これと決まった症状があらわれるものではなく時には皮膚炎など様々な形で現れます。

この心身症の難しいところは心理的なことが症状に関わるため、その背後にすぐ対応しなければならない重篤な身体疾患や精神的な疾患が隠れている可能性があることです。
例えば「会議の前におなかが痛い」と訴える社員が検査したらストレスで 腸炎が再発していた、風邪を引いたと寝込んでいた部下が実はうつ病……など、症状の程度では悪化させる要因や原因の緊急性がわからないもの。もし身近な人から不調を相談されたら、まずは病院の受診を勧めましょう。

心身症は 体の不調に対する治療を行うとともに原因となるストレスを解消することが大事です。ストレスを感じている本人はストレスに無自覚の場合が多いので、 心療内科など「心と体の両方をケアする」ことが必要です。
* * * * * * * *  


復帰を果たして15年以上が経過した梶原さんは現在、自身の新しい仕事にも向き合って活躍されています。
では、梶原さんのかかった「心身症」は一過性の心(気持ち)の問題として済ませられるものでしょうか?

答えはNOです。

精神障害と呼ばれるものの多くは、ストレスによる「脳機能の“疾患”」です。
骨折した足ではうまく歩けないように、疾患を抱えたままでは仕事やきちんとした生活を送ることは難しいでしょう。
心身症は体に症状が出ると先述しましたが、脳も立派な「内臓」ですのでダメージを受けます。うつ病や精神疾患なども同様に、「強すぎるストレスは体と心に傷をつける」のです。

梶原さんの場合は自覚があったといいますが、 身体の怪我や病気でないため目に見えず本人も自覚のないまま……ということもままあります。
つらい時期を無理をして過ごせば過ごすほど、脳はダメージを負う、つまり「長い時間無理して過ごすほど、重症化してしまう」のです。
重症化すればその分、治すのにも本人の体力や時間、周囲には大きなコストが求められます。

では、重症化を防ぐためには?
一番の方法は「早期発見、早期治療」です。
治療よりも検査の方が格段に労力は少なくて済みますし、なによりも治療にかかる時間や労力・苦痛が最小限で済みます。企業にとってもせっかく雇用した有能な人材が失われてしまう、治療費や休養費といったなるべく避けたいコストが発生する確率を軽減することができるのです。
疾患を抱えた本人・それを支える周囲の環境にとって早期発見は 【病によって失われるものを最小限に抑える】ことができる取り組みなのです。
この「早期発見、早期治療」に関する取り組みを予防医学の言葉で【二次予防】といいます。

労働者を抱える企業には、「疾患にかからない環境づくり」、「復職やリハビリなどの罹患後の保証」と合わせて、企業の安全配慮義務として努めて実施するよう法的に課せられています。
年1回の健康診断やストレスチェック、これらが【二次予防】の代表的なものです。

梶原さんは自分でも「限界」を感じていたけれど、そのままその限界を超えてしまうほどの仕事を続けたため、 0からのスタートが必要となりました。
芸能界は個人事業主が主流だと思われますので、健康診断やストレスチェックが義務とはならない・普及していない面があるのではないでしょうか。

もし、梶原さんが限界を自覚できていなかったら?
何が原因かわからなかったら?
きっと、より大きなものを失っていたり、復帰しても再び同じことが起きてしまったりしたことでしょう。

今回お話したケースでは、「回復するまで休業期間を設けられたこと」「周囲の人間が梶原さんを理解し、回復を信じてくれたこと」
と並んで「梶原さん自身が限界を感じ、Noといえる行動をとれたこと」「自身で何がストレスだったのかを把握できていたこと」が、【活躍できる復帰】に貢献したと考えられます。

人によって考え方や感じ方の違いはどうしても起こり得るため、どの人間にも共通する「100%メンタル不調に陥らない予防」はありません。
必ずどこかに不調の芽はある、定期的な検診やチェックで【二次予防】を行い不調の原因と体や心のSOSを見つけていきましょう。
 

〔 参考・文献 〕

初出:2019年09月09日 / 編集:2019年9月10日

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