ネプチューン名倉さん復帰!「術後の侵襲」によるうつ病・休業報道から見る「休業期間とリワーク」精神医療的考察

   

ネプチューン名倉さんの「術後の侵襲」によるうつ病・休業報道から見る「休業期間とリワーク」のポイント

【職場のメンタルヘルスケア】CASE STADY

ネプチューン名倉さんの場合 ──

往年のコント番組「笑う犬」シリーズや現在放送中の「ネプリーグ!」「しゃべくり007」などで人気を博しているお笑い芸人トリオ・コントグループ「ネプチューン」のリーダー・名倉潤さん。

2019年8月に『手術の侵襲によるうつ病』と2カ月超の休業を発表し、10月11日に「 二人の医師より復帰が可能であるとの診断を受け順次仕事を再開する」との【復帰宣言】で職場復帰を果たしたことが話題になりました。
 

活躍中の人気トリオ「ネプチューン」
最年長リーダーの身に何が起きたのか?!

名倉潤さんはお笑いトリオ「 ネプチューン」の 最年長リーダーとして活躍されています。

「ネプチューン」の結成は1994年、 当初は相方と別れたばかりの原田さん・ピンで活動していた堀内さんがコンビとして活動していましたが、 二人ともがボケだったためコントがしまらず、普段から親しかった先輩である名倉さんを誘って現在のトリオの形となったそうです。

トークやバラエティ番組のリアクションなどでも、二人の天然で強烈なキャラクターをまとめる役割を担っていた名倉さんですが、2005年に渡辺満里奈さんとご結婚され、現在は司会・コメンテーターといったMC活動から雑誌記事の執筆、トークイベントの主催など活動の幅を広げ、安定した活躍を見せていらした矢先に飛び込んだ「2カ月の休業」ニュースの背景にはどのようなことがあったのでしょうか?
 

経過は良好でも「侵襲」が……
メンタル不調のきっかけは“成功した手術”?

術後も一見順調に活動を続けられていた名倉さんが発表した『術後の侵襲によるうつ病』。ファンでなくとも、番組やメディアで名倉さんに親しまれていた方は驚かれたのではないでしょうか。

成功した手術なのに、それが原因でうつ病に? と思われる方も多いでしょう。

手術は確かに医療行為ではありますが、体にダメージを与えることは避けられません。特にヘルニアなどの神経に近しいところに触れるようなものですとその後の経過は特に慎重に取り扱わねばなりません。
この体が反応するほどのダメージのことを『侵襲』といいます。
 

* * * 術後の侵襲とは? * * *
侵襲が起こると、私たちの体は炎症や免疫反応を起こして体の正常な反応が阻害されます。この反応の程度によっては治療を行った部分だけでなく健康な組織までがその反応に巻き込まれて、害を受けてしまうことがあるのです。
反応によるダメージの重さは、傷跡が残るほどのよくあるものから重篤なものまでさまざまで、不全が起こる場所が手術を行ったところと異なるケースもよく起こります。
また、侵襲を受けた細胞が放出する炎症の原因物質がストレスとなって、イライラや過敏、気分の落ち込みといった精神的なダメージが起こるケースも報告されています。これらの症状や精神の不安定さを抱えたまま日常生活を送るのは、非常に休まらないものであったのではないかと想像できます。
* * * * * * * * 

 

2018年6月末に名倉さんは「頸椎椎間板ヘルニア」の手術を受け、術後に約2週間の療養休暇を発表。7月20日に復帰を果たしていました。

妻の渡辺満里奈さんが2020年7月11日放送のテレビ番組『サワコの朝』に出演し、術後の異変に気付いたときのことを話題にされていました。
 

「 手術のあと、明らかに様子が違うなと感じていました。」
「 いつもぼーっと注意散漫になって、覇気や生気がなくなりました。これはまずいなって。もともと神経質で、こうじゃなきゃいけないって思っている人なのに、そうじゃなくなっていた。
(略)」

 

渡辺さんは他のテレビ番組や雑誌インタビューなどで、主治医から「全身麻酔による意識障害が引き金だった」と告げられた話や、名倉さんが「いつも出来ていたことが出来なくなった」「辛いと思うのは、“自分がいけない”と思っていた」など長い期間不調の辛さを抱えて自身を責めていた様子について話をされています。

周囲の方々の気づきから専門医療にかかり、医師からきちんと病名を告げられた時、渡辺さんは「 “そういう病気だったんだ”と思ったら凄くホッとした、っていう風に本人は言っていた 」と当時の名倉さんの様子を振り返っていました。
 

家族の不安、メンバーの驚き……
発症・休業への各々の「向き合い方」

うつ病の診断・休業の選択は本人だけでなく、一緒に過ごす時間の多いご家族や同僚にとってもショックであったり不安を感じることでもあります。

名倉さんがうつ病と診断されてからの自身の気持ちについて、渡辺さんは『サワコの朝』で
 

「凄く不安でどうしたらいいか。私がすごく不安で。どうなっちゃうんだろうっていうのもありますし、怖かった」
本当にもう(もしかしたら10年20年治らないかもしれない、と) そういうことを考えたら明るくなんていられませんし、不安だった」

 

と語っていました。

また、「ネプチューン」のメンバーの一人である堀内健さんも、当初は名倉さんの症状に全く気付かず、その症状や休業についての相談を受けた時に初めてその体調や状況を知って驚きを感じたそうで、日ごろから三人で話す機会を設けるべきだったと話していました。
 

「相談受けた時にビックリしましたね。『え?そうだったの?』って」
「いつも楽屋で、俺と(原田)泰造ばっかりしゃべってて、潤ちゃんはいつも鏡を見て、自分の世界に入ってるような感じで新聞読んだりしてたから。慣れてきちゃって、会話が減ってきちゃったから。『もっと会話しとけばよかったな』って」
「ちょっと責任感じましたね」

TBSラジオ『伊集院光とらじおと』(2019年5月11日放送)
 

~ PSWからの「職場のメンタルヘルスケア」提言 ~

早期の復帰には慎重に!
リワークは「医師の意見」と「本人の希望」の調整を

PSW(精神保健福祉士)の立場で、今回のケースを振り返ってみましょう。

回復のためには、メンタルや精神科的なケアと並行して身体の治療とリハビリを行うこと、それと回復のための体力を養うためゆっくりと療養することが求められます。

名倉さんが休業を発表された際、その期間が「2カ月」とお伺いし驚きました。
企業が設けた就業規則にもよりますが、一般的な企業での休業期間は平均6カ月から12カ月となります。精神疾患での療養という視点では、かなり短い療養期間だと感じました。

名倉さんの「2カ月」での復帰は、今回のうつ病の原因が「手術の侵襲にある」という医師の判断があったからではないかと考えられます。復帰についても、精神的な疾患の原因になっている身体の問題が快方に向かった…という判断が下されたのではないでしょうか。

精神的な疾患に物理的な原因が認められること自体は珍しくはありません。しかし、休業するほどのうつ病が2カ月で復職できるまで回復するとなると、かなり特殊なケースとなります。

名倉さんは様々な方面で活躍され、またテレビ番組などで耳目を集める立場でありますので、この発表で視聴者の皆さんに「うつ病の復帰は2カ月程度でいいんだ」という認識が広まってしまうのではないか、と少し心配です。

また、術後から休職まで1年とかなり日が開いていることも懸念の一つです。

発表に基づけば、名倉さんはそもそもうつ病に至るほどのダメージを1年耐えてきたということになります。その回復には、同じほどの期間、もしくはそれ以上の日数が必要なのではないでしょうか。

なるべくなら今回の復帰の敬意が特殊なケースであることを報道した上で、しっかり気力と体力が戻るまで療養を行っていてもよかったのでは?と考えています。

***

精神の疾患を理由に休業する場合、「終了日を本人・医師と相談して決めること」を勧めるには、もう一つ理由があります。

「疾病の度合・回復の程度がわかりづらい」という点です。

現在、精神に関わる病への理解は徐々に広まっていると言えど、名倉さんのケースでも渡辺さんは家族として「甘えだ」といわれてしまう事を心配した、と語ります。

日常的に本人と話をしていない人からは十分に回復していると思われるような言動もあるでしょうが、本当の回復具合は本人でもわかりにくいのです。

実際休業期間中の行動について、制限や何かしらの規定を設けたという企業のお話もあります。「レジャーに行けるなら働けるだろう」 「十分に回復したのでは?」 と思う人事担当者もいるのではないでしょうか。

精神の疾患を抱えた方々にとっては普通の会話やレジャーなどで人と交流したり出かけたりという日常の動作が「普通の生活に戻るためのリハビリ」でもあるのです。

注意したいのが、活動できるほど回復してきた時期は本人にとっても「出かけられるなら…」と復帰を焦ることが多くなる時期です。出かけること、「自分だけ休んでいる」ことに自責の念や焦燥感、金銭的な不安を抱えてしまいがちになります。周囲から「あいつだけ遊んでいるのではないか」「甘えているのではないか」という声がないかと不安を感じる人もいるようです。

復帰に至る十分な休養のためには、何よりも「安心」して過ごせる環境が必要です。本人の不安や感情に対するケア以外にも、家族や同僚といった本人を取り巻く環境が【 不安なく本人を受け止めてあげられる 】ように、サポートや病状に関する正しい知識・適切なケアとは何かを共有することが大切ではないでしょうか。

渡辺さんは雑誌のインタビューで、名倉さんについて
 

「夫は自分の内面を掘り起こすのを嫌がるタイプ。だからゆっくり休むって言うのもどういうことかわからなかったと思うんです」

とも。

休業期間に入る直前の名倉さんについては、メンバーの堀内さんは別のラジオ番組で

「 休むちょっと前には、楽屋で蝋人形みたいな顔になってた 」
「 9月の休みになるに近づいて、どんどん、どんどん元気になって、顔色もよくなって。 「今日で休みます」って最後の日には、「じゃあ、明日からワシ、ロス行ってくる」って。「これから2ヶ月休む人のセリフか?」みたいな感じで、楽屋出てったから」

ニッポン放送『土田晃之 日曜のへそ』(2019年9月1日放送)
 

と、活気が戻っていた様子を話していました。
 
「休む」というのは当人にとって非常に難しい課題なのです。

本来、精神的な疾患は「回復する力そのもの」にダメージを与えるため、回復にとても時間がかかります。

「回復する力」が消耗するとどうなるか、発症時と同様に回復していく過程でも自分がどこまで回復したのか本人では自覚・把握は難しくなってしまうのです。また精神が不安定となりがちですので、生活の不安や周囲の目が気になる、焦りがちになるといった傾向もあり、「もう大丈夫」「早く働きたい」と本人から申し出る場合もよく見られます。

ですが、本人の申し出があったからと元の環境・健康だった時の仕事量ですぐ復帰させてしまうのは考えものです。復帰によって療養していた環境が変わることや、思っていたことができない自身のもどかしい状況などが精神的ダメージにつながり、復帰から短期間で再発と再休職に陥る可能性があります。

「十分に回復したので、復帰を検討したい」と本人の申し出があった場合でも、慎重に、段階を踏んで復帰する「ステップ的」職場復帰支援プログラムを組むところから始めましょう。

【 職場復帰支援プログラム 】とは、 病気休業開始から職場復帰、復帰後フォローアップまでの「復帰に至る過程」を5つのステップに分けて、それぞれを本人の病状・個々の事業場の実態に合わせてプログラム・プランニングする手順です。厚労省から手引きが発行され、「本人による診断書や意見書の提出」「産業医や産業保健スタッフを交えた面接」をスタートに、「時間をずらして通勤、出社をしてみる」、「時短勤務や軽作業」など回復具合に見合った業務を段階的に踏んで復職を行うよう検討のポイントや実施例が提示されています。

復帰プログラムを検討する際に重要になるのが、「本人の意思や病状がきちんと企業側に伝わるかどうか」です。 復帰プログラム中の本人や産業医と密に連絡が取れている・信頼関係があると信頼できる情報が得られスムーズでしょう。

復職の時期や計画などはもちろん、 復職前、休職中に複数回、産業医と本人(なるべくなら復帰先の部署)を交えて面談を行うと、計画の不一致を防ぐことができます。

現在の状態やどんな配慮ができるか、どういったスケジュールで動いていくか……これらの情報を共有し、「時間をかけて通常業務に戻していく」ことを目標に、本人・産業医を交えた場で計画を立てましょう。

企業側として、ゆっくり休んでいいことを伝えるとともに、復帰に前向きになっている場合このころから面談を重ねゆっくりプランを立て始めるとよいでしょう。また復帰まで余裕を持ったスケジュールを立て、その間に休業に至るまでのストレスの原因を検討し職場改善を図ることも再休職や他のメンバーの休職を防ぐためにも大事です。

***

リワークは本人にとっても一番緊張する難関です。急いてことを進めてしまうと、疾患の再発や再休職を繰り返す…といった負のサイクルにはまってしまうことも。

病気の治療と仕事の両立は身体の疾患でも調整が難しく、休職が続くことで「周囲に迷惑をかけてしまう」「休職期間が終了したが回復が間に合わなかった」と離職に至った事例は、休職に至った事例のうち2割にも上ります。それは逆に言うと「周囲の理解」こそが復帰、そして再休職の防止に必要な要素だとも言えます。

渡辺さんは、名倉さんの休職・及び早期復帰に関して、初期段階での症状の発見と、休職や病気に対する周囲の理解があった事が本人にプラスになったのではないかとも語って語っています。
 

「一番近くにいる人がよく見て、変化に気付いてあげるのが、初期段階では大切なのかなと思います」

 
企業としては貴重な人材の損失はなるべく防ぎたいもの。しっかりとしたフォロー体制やきちんとしたケアの道筋を示すことで、ご家族や同僚の不安を軽減し復帰に向けたサポートへ理解を進めることができます。

社員の健康・メンタルが気になる時こそチャンスです。これを機に「復職」する際のプロセスを再確認し、本人やかかりつけ医・産業医との関わり方を見直してみましょう。
 


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〔参考文献・関連リンク〕

初出:2019年09月17日 / 編集:2020年08月05日

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