「健康経営」=「人材活用」!従業員の健康における“ノンヘルスセクター・アプローチ”の重要性

メンタルの不調を患う人が増加している近年、「健康経営」の取り組みが企業に求められています。

「健康」「経営」という単語からまず想像されるのは産業保健分野に関わる「限られた部署」でしょう。ですが、「産業保健に関わる取り組み」だけでは不十分です。
会社の一部の部門だけが健康経営を進めるのではなく、組織が一体となって健康経営に取り組まなければ根本的な環境は変えられません。企業における経営や開発、評価など直接的には健康経営の関わりのない、いわゆる「ノンヘルスセクター」部分の改善も必要です。

そこで今回は、健康経営の必要性や従業員がメンタルの不調を患う原因、そしてノンヘルスセクター・アプローチについてくわしく解説していきます。
 

健康経営とは「従業員の健康」への投資

「健康経営」とは、従業員の健康を経営の視点から支える「人材活用」の一環です。

会社の経営において「人」は「活動の基礎」、日々業務に関わる従業員は大きな役割を持っています。基礎である「従業員=人」が不健康な状態であれば、業務の遂行や効率アップは難しいでしょう。ひいては企業の業績ダウンにつながる大きなデメリットとなります。

従業員の「人」部分に関わる要素としては、例えば怪我や精神病などの本人の体調不良による集中力・モチベーションの低下、人手不足や業務の過酷さによるオーバーワークなどが考えられます。
技術の開発が進み「人材」のもつタレントの重要性が増している昨今、これらが従業員の健康に及ぼす影響は企業にとって無視ができないほど大きなダメージとなりつつあります。
一方で、従業員が常に健康でひとりひとりが高い志を持ち、能力を充分に発揮できる経営状態であれば、企業の業績アップだけでなく企業イメージアップ・良質な人材の獲得にもつながるでしょう。

企業は自社の業績を上げるため、従業員が充実して働ける場所を作るためにも「健康経営」が今企業の資質として求められています。
 

増加する「精神的」な健康被害

近年、日本全体で精神疾患を罹患する方が増加しています。
厚生労働省によるデータによれば、精神疾患で医療機関を利用する患者数が平成14年で258.4万人であったところ、平成29年には419.3万人と。

中でも最も患者数の多い精神疾患はうつ病を含む「気分障害」です。ストレス関連障害・神経症性障害の患者数と合わせると全体の50%を超えています。

 

うつ病やストレス関連障害、不安障害などを含む神経症性障害は「職場でよく見られる精神疾患」に数えられる程、いまや誰もがその可能性を持つ「一般的な病気」の一つです。企業にも一般的な病気と同様の「早期発見・未然防止」「治療援助」「復帰支援」を行うことが求められています。
  

従業員が心を患う原因、なるべく改善を

従業員が精神疾患を患う原因はさまざまです。

山形大学環境保全センターの資料によると、「職場で起こる抑うつ」は
・職場ストレス(業務内容など)
・職場に適応していないこと(人間関係など)

の二つが精神疾患の原因になりうるとし、その要因は大きく分けて以下の3つと分析しています。

  • 個人の問題
    仕事上の能力の欠陥や身体的な病気、また従業員個人の個性の偏りなど
  • 上司の問題
    過大な要求や不安・緊張の煽りなど、人間関係に関わる問題
  • 組織の問題
    職場組織から個人に与えられる要求など

特に上司をはじめとした「人間関係を含む職場環境」の影響は大きく、いわゆる関係性を利用した職場でのいじめや嫌がらせ(パワハラ)が原因で精神疾患になったという訴えは無視できない数が報告されています。
パワハラと目される訴えの中には、たとえば、上司にパワハラの意図がなくても、過大な要求が従業員を不安にさせ、能力の低下に影響を与えていたケースなども少なくありません。その他、「同僚からの孤立」「部下からの突き上げ」といったストレス要因は業務・立場の関係上個人間の努力で改善しにくく企業や組織的な介入が必要になります。
 

公正性の低さがうつ病に影響

近年「従業員への扱い方に偏りがある」、従業員自身が不平等な扱いをされていると感じる環境は従業員のストレスに大きく影響するという研究が発表されました。公正性が低いと感じている人について、気分障害の発症リスクが1.4〜2.5倍まで高まることがわかっています。

組織の公正性には「手続き的公正」と「対人的公正」の2種類があります。
手続き的公正とは、組織の意思決定が公正的に判断されたものかどうかによるものです。
一方で対人的公正とは、上司が部下に対して尊重の念を持っているのか、また従業員それぞれに対して平等な意思決定を行っているかどうかに関わります。

上司および組織の公正な態度は「評価に対する信頼」、いわば「企業や上司に対する信頼」ともいえるでしょう。それは自分に対するものだけでなく、契約の違う従業員や他部署への取り扱いなども含まれます。
従業員の活気を生み仕事の効率化につながる関係性のためには、まず体制などがきちんと従業員の同意をとっているか、公表されているかといった「基本的な部分」より信頼を獲得していくことが重要です。
 

「ノンヘルスセクター」こそ健康経営で注目すべき“部署”

「ノンヘルスセクター・アプローチ」とは、2010年WHOで提唱された「全ての政策の中に健康を」入れ込む提案に基づく取り組みです。

企業の経営方針や企業風土・文化など、一見従業員の健康に関係のなさそうな分野でも、実際はその政策や方針が従業員の健康を害している可能性があります。
特に関係性の格差・業務内容、指示体制・待遇格差は生活そのものに深くかかわっているため、健康関連の領域を改善するだけでは健康経営が実現しないケースも少なくありません。

産業保健に関わる活動はもちろん従業員の健康を維持するために必要不可欠。
ですが、「経営・評価・風土を含めた組織全体の改革=ノンヘルスセクター・アプローチ」は健康経営を進める上で避けては通れない、けれど注目されることのなかった問題です。
これからの健康経営は、保健的な視点の他に「どう他部署を動かすか」がポイントとなるでしょう。
 

健康いきいき職場づくりとその進め方

健康経営を目指す上では、「健康いきいき職場づくり」の考え方を理解しましょう。

「健康いきいき職場づくり」とは、従業員が健康でいきいきと働け、かつ組織全体が助け合う一体感のある職場を目指す考え方です。
健康管理部門だけではなく、人事や労務が主体となって取り組む必要があります。
また、健康いきいき職場づくりでは以下3つの流れが重要です。
 

  • ポジティブアプローチ
    うつ病予防やストレス改善に加えて、従業員に対してポジティブ思考を増加させる取り組み。
  • 職場の資源へのアプローチ
    コミュニケーション不足や従業員同士の信頼低下など、メンタルヘルスに悪影響を及ぼす環境を取り除く取り組み。
  • 経営としてのアプローチ
    経営方針や職場のマネジメントをはじめとした、ノンヘルスセクターに関わることを経営の視点から改善する取り組み。


このように、健康いきいき環境づくりは産業保健師の取り組みだけではなく、人事や総務および経営陣などが協力して、「組織の健康経営」を目指すものです。

「人事・総務・産業医に言われたから……」「あの部署の結果が悪かったから……」といった“他部署意識”ではなく、会社を構成する「人間である私たち」へよりよい環境を提案するためすべての部署が当事者意識を持つこと。
これからの時代
 


従業員の健康被害は本人の人生の問題だけでなく、企業の人手不足や業績低下につながる「リスク」です。健康経営は従業員の健康を守るだけでなく、企業にとっても非常に大切な取り組みとみられ始めています。

企業の「健康経営」として取り組むなら、産業保健スタッフに丸ごと任せてしまうのでなく、人事や総務そして経営陣が一体となって環境改善に務めなくてはいけません。
“ノンヘルスセクター”の影響力を活用し、従業員の健康と企業の発展を目指しましょう。
 

〔 参考・文献 〕

初出:2019年11月28日

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