ハラスメントの実態と予防・対策:新たな企業の敵は“お客様”?「カスハラ」の実態とその背景

   

新たな企業の敵は“お客様”?「カスハラ」の実態とその背景

お客様からのクレームは企業として真摯に受け止めるべき大事な意見ではありますが、その声も度が過ぎてしまうと立派な「ハラスメント」。
店舗や企業、従業員の害となるような迷惑行為や悪質クレームを「カスタマーハラスメント」として、近年対策の必要性が訴えられています。

特に接客業・小売業など、サービスや商品を通して「人 と 人」が対面する業種で避けられない“お客様と従業員”関係を利用したハラスメントは、従業員の心身を傷つけてしまうことにもつながりかねません。
SNSでの拡散が普及した現在、たとえハラスメントが発端としても口コミなどで経営に影響が出てしまうことも。

従業員や会社を守るために、まずは「カスハラ」とはいったいどのような行為なのか、学んでいきましょう。
 

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?

カスタマーハラスメントとは「顧客・消費者からの度を超えた悪質なクレームや要求」のことを示します。

特徴は「 顧客という店員より優位な立場を利用した」「過度・不当な要求を行う」点です。

カスタマーハラスメントの加害者は、従業員の「お客様だから強く言ってはいけない」「お客様の言うことだからなるべく聞かなくてはいけない」という心理を利用して、自分本位の理不尽な要求をしたり、業務と全く関係のない人格を攻撃するような暴言を吐くといった加害を行います。
また従業員のささいなミスをきっかけとして、苦情以上の暴言や暴力、不当な金銭の要求を行ってくる場合もその背景や関係性を利用していることは同様です。

全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟(UAゼンセン)が2017年に行った悪質クレームに関するアンケート調査の中で、悪質クレームの類型として以下のようなものが挙げられています。

  • 暴言、人格を否定するような悪口雑言
  • 威嚇・脅迫・ 暴力行為
  • いわれのない説教や度を越した横柄な態度
  • 何回も同じ内容を繰り返す、長時間相手をさせられる
  • セクハラや性別を対象にした嫌がらせや要求
  • 金品の要求、不当に高額な補償の要求
  • 土下座の強要など人格や名誉の既存
  • SNS・インターネット上での誹謗中傷、事実の捏造

上記のような行為はどれも 、社会通念上許される範囲を超えた「悪質」なものであるといえるでしょう。
消費者も従業員も、立場は違えど同じ人間としてお互いが共に尊重される存在であり、商品やサービスの提供を挟んで健全で対等な関係であるということを忘れてはいけません。

判断基準は「繰り返す」「長時間」「目的がわからない」

悪質なクレームと正当なクレームの見分け方が難しいと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

人間が対応を行う以上、ちょっとしたミスやトラブルは避けられないでしょう。また顧客の不満の中には「おいしくなかった」「気分を害された」など主観的な部分も必ず存在します。
客の苦情をきちんと聞き、店側が悪ければ謝罪をしたり適切な対応をしたりということは必要です。

しかし「誠意を見せろ」というような具体的な内容を示さないような要求や、特別な対応を要求するようなことがあれば、そのクレームが「ハラスメント(または不当な要求)」を目的としたものではなかどうか一度考えてみましょう。

ハラスメントと目される悪質なクレームの中には
「従業員の時間を業務ではないことに長時間使わせる」
「自分の目的や感情のために従業員を使う」
ことも含まれます。クレームとして対応を行う際は、30分を目安として、
「30分以上の長時間対応を求められているか」
「要求やクレーム内容は過度・不当・あいまいのどれかに当てはまるか」
「業務に関係のない要求や叱責ではないか」

を確認してください。
 

7割が悪質クレームに「遭遇」
「暴力」「金銭の要求」「セクハラ」は特に強いストレス

UAゼンセンが2017年に実施したアンケート調査によると、業務中に来店客からの迷惑行為に遭遇したことがあると回答している人は全体の約7割でした。
遭遇したことのある悪質クレームのトップは「暴言」「同じ内容の繰り返し」で、百貨店や家電量販店、住環境関係などに従事される方が比較的遭遇しやすいというデータが出ています。

また、「カスタマーハラスメントを受けた」と回答した人のうち、
・精神疾患になった……0.5%
・強いストレスを感じた……54.2%
・軽いストレスを感じた……37.1%。
合計して9割以上が顧客の対応にストレスを感じているという結果に。
精神疾患になったと回答している人は0.5%と全体の割合としては少ないものの、このデータには既に退職した、休職されている方は含まれていません。
アンケートに回答してくれた方は氷山の一角で、実際はこの結果を上回る人数の方がカスタマーハラスメントによって精神疾患や退職に追い込まれてしまったのではないかと分析されます。

また「精神疾患になった」と答えた方が受けたカスハラと「軽いストレス、何も感じなかった」と答えた方の受けたカスハラの比較すると、「セクハラ」「金品の要求」「暴力行為」「土下座の強要」「SNSやネットの誹謗中傷」が非常に強い関係性があるとされました。

身体的な加害をうけてしまった従業員は、その後の勤務にもそのカスハラが大きな影響を及ぼすようです。
 

カスハラ増加の背景には「顧客」側の心理と
「過剰なサービスの一般化」が

前期のアンケートでは、小売業、特に大きな買い物を目的として来店し長時間の接客が求められる業種でカスハラの遭遇率が高いことが判明しています。
カスタマーハラスメントが増えてきた背景は、どのようなものがあるのでしょうか。

1つは「店員を下の立場の者」と考える顧客の存在です。
日本社会では長年「お客様は神様」と例える「顧客至上主義」が共通意識として存在し、「店舗は可能な限りサービスを向上し、客に対して丁寧に接客すべき」という価値観が良いものとされてきました。
その価値観に基づいた接客を受けるうちに、「お客様が上、店員は下」という感覚が生まれ、顧客の中に「自分の下の立場にあたるべき店員には理不尽な態度をとってもいい」と考える・感じている人が発生しているおそれがあります。

2つめは金額以上のサービス提供が一般化したことによる影響が考えられます。
顧客至上主義によって値段を上回るサービスが恒常化、それによって顧客が思う要求水準がどんどん高まり「顧客の期待するサービス」と「従業員の提供できるサービス」に生じた落差がトラブルを引き起こしている可能性です。
丁寧すぎるサービスが標準となっていることによって、本来プラスアルファであったサービスが当たり前になり、「プラスアルファがない」=客側が「適切なサービスを受けられなかった」と感じてしまう場面が増加したのではないでしょうか。

 

企業は従業員を守るためにカスハラ対策を

先述のように、認知されていないけれどもカスタマーハラスメントが原因で離職する従業員はかなりの人数存在していると言えるでしょう。
過剰なサービスによる人手不足の中、教育した従業員が客からの理不尽な悪質クレームが原因で辞めてしまっては企業にとっても大きな損失。またカスハラがあるという業界イメージが独り歩きしてしまうと職業選択の候補から除かれてしまい人材が来ない……という悪循環のきっかけにもなりえます。

2019年5月に成立したハラスメント防止法でも、顧客からの悪質行為は言及されています。また迷惑行為への対応のために何が必要かと問われた業務従事者の4割が「企業の組織体制を円滑にする」「企業のクレーム対策教育が必要」と回答しました。
お客様の安全・安心を守ることは企業の第一でありましたが、これからは「従業員をお客様から守る」ために企業が率先して対策をとっていく必要があるのではないでしょうか。

〔参考文献・関連リンク〕

初出:2019年12月06日

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