パワハラ防止法:指針決定!2020年の施行に向けて、気になるその中身とは

   

パワハラ防止法の指針決定!2020年の施行に向けて、気になるその中身とは

2019年も終わりに差し迫った12月23日、 第24回労働政策審議会雇用環境・均等分科会 において 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」(改正労働施策総合推進法)  、いわゆる“パワハラ防止法”の中核となる指針が決定されました。

パワハラ防止法の指針については、2019年10月 に日本労働弁護団より「規定を設けることでかえってパワハラを助長するのでは」という反対意見もあり再度の見直しが求められていましたが、今回の改正案では以前の発表からどの部分が変更されたのでしょう?
「2020年6月施行」 の日程もあり、企業として「義務になること」「ハラスメントの線引き」が気になるところ。厚労省の発表した指針を読み解いてみましょう。
  

改正で決定した“ パワハラの定義 ”とは?

今回の改正では、 以前より発表されていたパワハラの定義や6類型に際し、明確な【例】を示しパワハラ防止法の中核となる「パワハラの“ 定義 ”」をより具体的に定めた点が注目されています。
 

パワハラの定義

パワーハラスメント、いわゆる「パワハラ」に値する言動に関しては、「以下の① から③までの要素を全て満たすもの」として定義が述べられています。
 

  1. 優越的な関係を背景とした言動
    ⇒ ★上司や役員など職務上、地位が上位の者
      ★同僚または部下でも、必要な知識・経験があり
      業務の遂行に協力が不可欠な関係
      ★同僚や部下からの集団による行為
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
    ⇒企業や組織の目的・業務と照らし合わせた時に
     ★明らかに必要性がない/業務の目的から大きくそれている、関係がない
     ★業務遂行の手段(職場のコミュニケーション)として不適当
     ★回数、関係人数等が常識的な範囲を超える
    ……この判断に当たっては 職場における要因を総合的に考慮すること、その際には事案ごとの行動・指導・相対的な関係性についても考慮が必要です。
  3. 労働者の就業環境が害されるもの
    就業環境が 苦痛・不快を与えるものとなったために、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等就業に支障が生じること。
    ……この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」が基準となります。「同様の状況・関係性で同じ言動を受けた場合、社会一般の労働者がどう感じるか」に則った判断が求められます。

「優越的な関係」には上司部下の立場の差はもちろん、同じ同僚や部下であっても「知識・経験の差や力量による力関係」も含まれることが示されました。
その他の定義に関しても、「 業務上必要かつ相当な範囲 」「社会通念上適切であるかどうか」といった表現へ具体例や考慮しなければならない点を示したものとなっています。

ですが、個々の事例がパワハラに該当するかどうかはその組織・業務・言動の内容や経緯などを“ 総合的に判断 ”したうえで、本人が受けた心身の苦痛がどの程度の者であったかを“ 考慮する ”ことという表現にとどまっています。
これは明示した例に当てはまる・当てはまらないによって実際に発生したハラスメントが適切に対応されない……といった事態を想定してのものと思われます。

よって個別の事案についての判断は、「事実確認」をより重視するものとなります。このため、“ 本人の心身の状況 や受け止め方 ”、“周囲の認識や考え”にも配慮しながら「丁寧な事実確認」を行う役割として重要な立ち位置として、相談窓口やカウンセリング・ヒアリングを行う担当者や制度が重要視されていくことでしょう。

また、問題とされる行為が「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲」で行われる適正な指示・指導なのかという基準は、明示された例や判例に即するのかについて今後も継続して注目されています。
 

パワハラ6類型にも“例”の明示が追加

以前より公表されていたパワハラ6類型にも、該当例・非該当例が明示されました。

  • 身体的な攻撃 (暴行・傷害)
    該当例:殴打・足蹴り・相手に物を投げつける
    ⇔ 非該当:誤ってぶつかる
  • 精神的な攻撃 (脅迫・名誉棄損・侮辱)/(どなるなどの 暴言・恐喝を含む)
    該当例:
        ① 人格を否定する・プライベートな事柄に対する侮辱的な言動
         ② 業務に必要な以上に叱責を
        【長時間にわたり/必要以上に厳しい/頻繁または繰返し】行う
        ③ 他の同僚の前で、威圧的・侮辱的な叱責を繰り返す
        ④ 電子メール等で
        【 相手を軽んじる / 能力や人格を否定する / 罵倒する 】
         ような内容を本人含む複数の労働者宛てに送信する。  
    ⇔ 非該当:
        ① 遅刻などルールや礼儀を欠いた言動に対し、再三注意しても
         それが改善されない時、一定程度強く注意をする
        ② 業務の内容や性質上重大な問題行動を行った際、
         一定程度強く注意をする
  • 人間関係からの切り離し (隔離・仲間外し・無視)
    該当例:
         ① 業務を中断させ、
          ・長期間にわたり別室に隔離したり、
          ・自宅研修させたりする ②同僚が集団で無視をし、
            職場で孤立させる。
    ⇔ 非該当:
        ① 新規に採用した労働者を育成するために
          ・短期間集中的に
          ・別室などで
          ・研修等の教育を実施する
        ② 懲戒規定に基づいた処分のため、通常業務に復帰させる前に
          別室で必要な研修を受けさせる  
  • 過大な要求 (業務上明らかに不要もしくは遂行不可能なことの強制)
    ( 仕事の妨害や教育・情報をシャットアウトする等を含む )
    該当例:
        ① ・長期間にわたり
         ・肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で
         ・勤務に直接関係のない作業を命ずる
        ② 新卒採用者に対し、
         ・必要な教育を行わないまま
         ・到底対応できないレベルの業績目標を課し、
         ・達成できなかったことに対し厳しく叱責する
        ③ 業務とは関係のない私的な雑用の処理を無理やり行わせる
    ⇔ 非該当:
    ① 育成のために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる  
    ② 業務上の必要性から、繁忙期に通常時よりも一定程度多い業務を任せる
  • 過小な要求(合理性なく能力とかけ離れた仕事の命令や仕事を与えない)
    ① 退職させることを目的に、誰でも遂行可能な業務を行わせる。
    ② 嫌がらせのために仕事を与えない。  
    ⇔ 非該当:
    ① 労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する。
     
  • 個の侵害 (プライバシーに過度に立ち入ること)
    ① 職場外でも継続的に監視したり、業務に必要のない私用・嫌がらせ目的の写真撮影をしたりする。
    ② 性的指向・性自認や病歴、治療等の機微な個人情報について、本人の了解を得ずに他の労働者に暴露する
    ⇔ 非該当:
    ① 職場内での配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行う。
    ② 職場の配慮を目的として、本人の了解を得て、機微な個人情報について必要な範囲のみを人事労務部門の担当者に伝達する。  

ヘ②のように機微な個人情報を暴露することのないよう、(イ) 労働者に周知・啓発する等の措置を講じることが必要であること
 

判断ポイントは? “限定列挙”ではないことは念頭に

列挙した例を見ていくと、その判断基準となるポイントはおおむね以下のようなものではないかと考えられます。

・害意の有無 / 本人の苦痛の程度
・業務との合理性
・期間、回数、頻度、程度が逸脱していないか
・人権の侵害や業務に関係のないプライバシーへの関与か

例として挙げられた内容も「 一定程度 」などかなりファジーな表記部分や
これらの表現は、「事案の内容や本人の感じた苦痛などに対応してハラスメントに該当するかどうか」を判断できるような配慮とも考えられるでしょう。
この改正案で挙げられた例は“限定列挙”(書いてある事例のみを、パワハラの基準・事例として認定する)ではなく、個別の事案内容や状況、被害者の受けた言動内容によって判断されることとなります。

ですが、 日本労働弁護団 など様々な方面からの指摘にあるように、「定義や例の明確化によって、加害行為に正当性を与えてしまわないか」という懸念はいまだぬぐえない内容ではあり、より一層の検討や事例の積み重ねが必要なのではないでしょうか。
 

企業に義務付けられる 義務と取り組み

指針ではその他に、企業による雇用管理上の義務として以下の「対応内容」が示されました。大きく分けると 企業としての方針の明確化と周知 / 相談・報告体制の整備 / パワハラ発生時の適切な対応その3つと併せて講ずべき措置 を加えた4分野の対応が求められて行くこととなります。

一つ一つに例や確認ポイントとなるべき着目点が設けられていますので、見ていきましょう。
 

  • 企業組織・事業主としての方針等の明確化とその周知・啓発  として……
    ☆パワハラの内容や防止・禁止の方針を明確化し、周知・啓発すること。
     ・就業規則等で方針を定め、パワハラとは何か・パワハラを行った際の
      罰則や対応等を明記する
    ☆パワハラの原因や背景に関する研修や講習、資料の提供を行い、
     パワハラについての知識や防止・禁止に関する情報を提供する
     
  • 相談・報告体制の整備 として……
    ☆適切な対応ができる相談窓口の設置と、社内への周知活動
     ・相談を受けた場合、 相談窓口の担当者が参照できるマニュアル作成
     ・相談を受けた場合の対応についての研修を行う      など
    ☆相談窓口担当者を定め、適切な対応ができるようにすること
     ・相談内容や状況に応じて、相談窓口と人事部門が連携できる
     ・ 実際に起きている場合だけでなく、
      パワハラに該当するか微妙な場合や発生の恐れがある場合も
      広く受付け、適切な対応をすること。(外部機関への委託もOK)
     
  • パワハラ発生時の迅速かつ適切な対応  として……
    ☆迅速かつ正確 な事実関係の確認
     ・事実の確認のために第三者からもヒアリングを行う。
     ・確認が困難な場合、第三者機関に委託できる
    ☆迅速かつ適正な被害者に対する配慮・措置
     ・行為者の謝罪など関係改善の援助、配置転換などの不利益の回復、
      産業保健スタッフ等によるメンタルヘルスケア等の整備
     ・第三者機関の提案する紛争解決案に従った措置や
      行為者に対して必要な罰則などの措置
    ☆再発防止に向けた取り組み
     ・パワハラ防止の方針及びパワハラ行為を行った者についての対応を
      周知、パンフレットなどで配布等すること。
     ・意識啓発のための研修、講習等を 改めて実施すること。
     
  • 他の措置と併せて講ずべき措置  として……
    ☆相談者・関係者のプライバシー保護
     ・プライバシー保護に必要な対応をあらかじめマニュアルに定める
     ・相談窓口の担当者に必要な研修を行うこと。
     ・プライバシー保護のために必要な措置があることを、周知する
    ☆相談やパワハラの訴えを理由に不当な取り扱いをしない
     ・就業規則等で不利益な取り扱いをしない旨を定め、周知する


また指針には、職場におけるパワハラを防止するために企業が行う取り組みとして望ましい「ハラスメント相談にも対応する一元的な窓口の設置」や「感情コントロール手法などのコミュニケーションを学ぶ研修」、職場環境の改善、社内アンケートによる状況把握などの4項目が挙げられています。

  • パワハラ、マタハラ、セクハラ、その他のハラスメントに対し
    一元的に相談に応じることのできる相談窓口や体制の整備

    ☆相談窓口で パワハラ、マタハラ、セクハラ、その他のハラスメントに
     ついての相談ができることを明示する
     
  • パワハラの原因や背景となる要因を解消するための取組
    ☆コミュニケーションの活性化や円滑化のための研修等
     ・日常的なコミュニケーションや定期的な面談、ミーティング
     ・感情のコントロール/コミュニケーションスキル する手法について、
      マネジメントや指導についての研修や資料の配布等
    ☆適正な業務・職場環境の改善のための取組
     ・過度な負担を強いる 職場環境、風土の改善のために、
      …目標の設定や業務体制の整備
      …業務の効率化などで長時間労働等の是正改善
     
  • アンケー ト調査や意見交換の機会等で状態の把握や措置の見直し・検討


設ける相談窓口はパワハラに限らずモラハラやセクハラ・マタハラ、他の団体に属する方々からのハラスメントにも対応していることが望ましいとされています。
また、取組を行うに当たって「コミュニケーション能力の向上はパワハラの発生を防止すること」や、「パワハラではない適正な指示・指導とは何か、指示指導を行う際真摯な意識を持つこと」の重要性についても言及があります。

その他にも、明確な定めはないものの、顧客から受けるカスタマーハラスメントや、就職活動中の学生・フリーランスで働く個人事業主へ行われたハラスメントの報告・相談について、義務措置を踏まえた「適切な対応」を行うが課せられています。
相談窓口の設置とともに、自社内のハラスメントに関する規定の確認・社外のハラスメント報告に対する対応方法の整備・相談に対する応答マニュアルの作成などはなるべく早くから着手すべきタスクになるでしょう。
 

ハラスメントは企業の責任とともに「従業員個人」の行動も判断基準に

改正された指針では、事業主に「ハラスメントに対する労働者の関心・理解を深める取組み」を 義務付けています。これには従業員への研修やハラスメントに対する対策の明示の他に、国の行う啓発活動への協力やハラスメントがもたらすマイナス効果などの周知、 労働者の言動への注意といったことが含まれます。
特にハラスメントが休職・退職の原因となることやそれがもたらす経済的な損害があることはハラスメントに関する知識に加えて行わなければなりません。

また、従業員側にも「ハラスメントに関心を持つこと」「言動やその内容・態度に必要な注意を払うこと(ハラスメントにならないか自身で気を付けること)」とともに「 事業主の講ずる措置に協力するよう努める」ことが求められることとなりました。

この改正は「ハラスメントは企業の風土・体質がもたらすもの」であるととももに、「個人の言動に対する自覚・責任」もその中に含まれると注意を促しています。
 

国際基準のハラスメント対策が待たれる

我が国におけるハラスメント対応はまだ日が浅く、国際的な水準の対応が行われているかと言えば疑問が残ります。ハラスメントに関する運動や対応が一貫して慎重に行われてきた理由として、「今まで行われてきた適切な指導との区別が難しい」「指導をためらってしまうようになるのでは」という声が今も挙げられています。

ですが本年に発覚した様々なハラスメントによる労災や自死事件などをみるに、指導とはかけ離れた叱責を行ってしまう、相談者が声を上げることをためらう社内の空気を作っているのは「そもそもの指導方法に誤りがあったこと」が原因なのではないでしょうか。
また個人間でのモラルに関する認識、コミュニケーション・行為・言動を客観的にみるスキルや地震の行動に対する責任感 の差 などもハラスメント問題が起こる一因として考えることができそうです。

わが国の加盟しているILO(国際労働機関)が提唱する「 仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約 」では、ハラスメントを「人権侵害または虐待になり得ること、機会の平等を脅かす許容できないもの 」として、従業員・インターン生やアルバイト・事業主も含む誰もがその脅威にさらされる可能性があることとハラスメント禁止・制裁の根拠となる規定の明示や整備を呼びかけています。

今後は指針の発表とともに、運用の方法を定めた通達を労働局等に発布し、順次企業や労働者に向けたパンフレット資料が作成される予定です。
 

〔 参考・文献 〕

初出:2019年09月12日

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