パワハラ防止法施行目前!対策は「就業規則のリニューアル」から

パワハラ防止法施行目前!対策は「就業規則のリニューアル」から

年末に発表された 「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」 、いわゆる【 パワハラ防止法 】の指針において企業に対する「雇用管理上必要な措置」の義務化など施行の実現に向けたステップが掲げられました。

相談窓口や対策の計画を進められていた担当者・経営者の方にとって、この指針は今の計画の見直しにかかる大きなものでしょう。どんな対策から着手すればいいかお悩みの企業にお勧めしたいのが、「就業規則の改正」です。
ハラスメントに対する社内の空気や風土を変える一番の近道は「会社のTOPがNoということ」、就業規則や声明の発表は低コストで空気を変える力を持つ解決策です。実際に、すでにハラスメント対策を行っている企業の6割は社内の対応に加えて「就業規則の改正」を実施しているというアンケート結果も発表がありました。

今回は就業規則にパワハラ対策を盛り込む際に注意したい点をまとめました。
 

就業規則を変えるのは一番無駄のない「パワハラ対応」

2019年11月に示された「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」では、事業主の義務として以下の内容をあげています。
 

  • 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  • 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  • 相談者・行為者等のプライバシーを保護するための適切な対応の整備
  • 職場におけるパワーハラスメントに係る適切な対応の整備を、
    労働者に対して周知すること
  • パワハラの相談、対応を理由とする不利益取扱いの禁止

大きく分けると「相談・事後に対して適切な対応がとれる体制の整備」「方針や取り扱い内容の明確化」「それらを労働者や社外に向けて周知・啓蒙を行う」の3点となります。

これらのポイントを施行日までに……と考えると、いろんな「行わなければならないこと」が考えられますね。「弊社では何をするのか」「どんな制度を目指すのか」を定める指針として、まず取り組みたいのが【就業規則の改正】です。
 

トップからまず変わろう

何人もの人間がかかわることで形成されている組織の風土やこれまでの慣習は、一人が声をあげてもなかなか変えることが難しいものです。風土を変えよう!変わろう!という動きを強力に後押しできるのは「経営陣や上長、組織のTOPの影響力」に他なりません。

宣言を発表したり、実際の現場を預かる長役が取り組みを率先して行うなどが挙げられますが、その際は以下の4点を含めると効果的でしょう。
 

【ハラスメント対策・TOPメッセージに求められるポイント】

  • ハラスメントは「重要な問題」だと認める
  • ハラスメントを「許さない/見過ごさない」ための対策をとる宣言
  • ハラスメント行為を「しない/させない/放置しない」ための社内の対策紹介
  • 会社として、パワーハラスメント対策に取り組む/取り組んでいるという態度の表明

社内の整備とともに、改正された内容や宣言・声明はHPに掲載する等従業員全員・社外の関係者が見やすい方法で周知するのが望ましいです。
就業規則としては「 会社は、職場におけるパワーハラスメントに関する方針を明確にし、全従業員に対してその周知・啓発を行う。 」という条項を作成するとよいでしょう。
 

改正・追記は労使の間で合意をしてから!

気を付けたいのは、就業規則などを改正する際の手続きです。
「法律に対応する」「より従業員のケアができるように改正する」としても、定められた「就業規則の基本的な作成手順」に沿ったものとなります。

就業規則は会社の基礎を作る「会社とそこで働く人との同意」があってこそ成り立つルールです。衛生委員会など従業員の代表のいる会議などで改正を提案し、案や内容についてなるべく多くの従業員から意見や同意をとりましょう。

ハラスメント防止の当事者であるとして「 労使協力して 「 会社及び組合は、その防止に努めるものとする。 」という文を加えることも自覚や参加を促す効果があります。
 

就業規則には「ハラスメントの定義と対応」を明記

就業規則にパワハラ対策を盛り込む際、明記したいのが「ハラスメントとはどんな行為か」「ハラスメントを行うと、どんな処罰が下されるのか」です。
昨年末の指針では、 パワーハラスメントの6類型 に当たる具体的な行為の例が発表されました。かなり詳細な例ではありましたが、ハラスメント行為は非常に多岐に渡りその被害がもたらす苦痛や発生した状況は様々です。

お勧めは以前から厚労省が発表している3つの定義を基本として「定める」、ハラスメント講習や予防のための啓蒙活動などでより具体的な6類型の内容を示すといった「活動」、この二軸で相互的に「ハラスメントとはどんな行動なのか」を周知し広く認識してもらうことです。

「してはならない」といった禁止である旨の明記、または「 懲戒解雇 、 けん責、減給又は出勤停止 」といった具体的な処罰の提示と関連付けて従業員にわかりやすく周知できる形を考えましょう。
 

“ パワーハラスメントの6類型 ”とは?

現在、パワハラは「優越的な関係を背景とした」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により」「就業環境を害すること」の3点が含まれえると定義されています。その具体的な行為として、以下の6つのパターンが提示されています。
 

  1. 身体的な攻撃(暴行・傷害)
  2. 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・暴言)
  3. 人間関係の切り離し(隔離・無視・疎外)
  4. 過大な要求(業務上明らかに不要・遂行可能なことの強制、仕事の妨害)
  5. 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事や仕事を与えないなど)
  6. 個の侵害(私的なことに過度に立ち入る・私的なことを暴露するなど)

 
ただ、これら6点がすべてのハラスメント行為を包括するものではありません。
行動が悪質である・加害者、被害者以外の人々にもマイナスの影響を与えるなど、ハラスメントが与える害を視野広くとらえることが重要です。場に居合わせたものが「ハラスメントだと知っていながら行動を肯定した」ということも監督責任の不履行に含まれるとして、「 上司は、部下である社員がパワーハラスメントを受けている事実を認めながら、これを黙認する行為をしてはならない。 」という文章を加えることも。

「詳細は「パワーハラスメントの防止に関する規程」により別に定める。」などとし、別途対応マニュアルや規定で詳しくその行動内容に基づく対応を定めると参照しやすくなります。
 

労働者へのケアや再発防止の体制も整備を

特に相談や事後対応はそれぞれのケースや内容に応じて変化するものですので、規定などで一律に定めることは難しいかもしれません。

対応の内容ではなく対応の体制と事実確認などの手順・検討方法のマニュアルを定めるものとして、 規則には「相談したこと・パワハラを受けたことによって不利益な取り扱いはされない」・「プライバシー情報は必ず守られる」の2点を必ず表記すべきです。

特に相談体制については責任者や担当となる方への研修、プライバシー情報の取り扱いについてマニュアルを作成することなども併記し実現するよう計画を進めましょう。
 

改正された規則は“実施”されてこそ

きちんと作成した規則でも、実際の職場や行動に影響するためには「従業員全員」に「ハラスメントは禁止する規則があり、罰せられる行動だ」と認識される必要があります。

就業規則の改正が実施されたなら、並行して従業員や社外の関係者に向けて、わかりやすい言葉でどのような改正がされたのかを周知しましょう。ハラスメントについての講習に就業規則で定められている内容を説明する時間を設けるなど、規則があることで「行わない/行わせない」環境が構築できます。 「行わせない」対策、未然に防ぐための予防的な啓蒙活動も企業に求められているのです。

そして規則に影響力を持たせるために一番重要であるのが、「きちんと実施される」こと 、実施されないルールではいつまでも影響力はありません。また実施しなければそれが適切な、または自社に合った内容であるかの検証もできません。
適切な運用ではないと、発生したハラスメントが深刻化し被害者・加害者双方に深い禍根を残してしまうことも。その後の訴訟リスクに関しても、対応の適切さは企業の責任が果たされていたかの判断に大きく影響します。

規則は知られなかったら意味がありません、処罰・対応は周知と実施を並行して誠実に行いましょう。
 


改革はまず一番大きな部分が変わることが重要です。
空気や風土は上から変えていくのが効率的、ハラスメントが発生する土壌となる部分がないか就業規則から自社の「健全性」を見直してみましょう。
 

初出:2020年1月14日

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