人事・労務担当者のためのメンタルヘルスケアコラム:“眠れない……”はメンタル不調のシグナル?睡眠障害は心と体の危険信号

   

“眠れない……”はメンタル不調のシグナル?睡眠障害は心と体の危険信号

睡眠障害はメンタルの不調において一般的にみられる徴候ですが、不眠に悩んでいる人は日本の成人の5人に1人と、意外と多いことが知られています。

不眠に悩む人が多くなった背景としては、人口の高齢化、ライフスタイルの多様化、24時間社会における生活リズムの乱れなど、多岐にわたる要因が考えられます。どれも現代の日本社会では避けられないもの、その分何か対策を立てたい部分であります。

睡眠障害がどのような症状なのか、メンタルの不調の関係や睡眠障害を持つ家族・同僚への対応について、心身の健康にかかせない「睡眠」の情報をまとめました。
 

睡眠障害の症状

厚生労働省のサイト「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」では、睡眠障害は「睡眠に何らかの問題がある状態」と定義しています。
睡眠障害と一口に言っても、その内容は様々で、
寝付けない(入眠困難)
・夜中に目が覚める(中途覚醒)
・朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)
という症状だけでなく、
昼間に眠気が続く
・睡眠中の異常行動
睡眠リズムの乱れ
など、人によって全く異なる症状がみられます。
どれも心身や社会生活へ支障をきたす・労災につながる可能性がある「悩みの種」です。

「最近いびきが酷くなった」、「寝言が増えた」などと家族から指摘されたり、たくさん寝たはずなのに日中眠くて仕方がない、眠りが浅いなどの自覚症状がある場合、仕事中によく欠伸をしている、居眠りをしているなどがみられる場合は、睡眠障害があるかもしれません。
 

睡眠障害とメンタルの不調

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針 2014」では、睡眠障害とメンタルの不調(うつ病)の関係について、次の通り紹介されています。

不眠などの睡眠障害は、精神疾患で頻度の高い症状である。
精神疾患、特にうつ病の初期には、患者は不眠のみを訴えることがあるので注意が必要である。うつ病の場合、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒に加え、熟睡感欠如、休息感欠如、朝の離床困難が合併してくることが特徴的である。うつ病に伴う不眠の場合、うつ病の診断と適切な精神科的治療がなされなければ、睡眠薬のみの投与では改善しない可能性がある。うつ病が疑われた場合には、速やかに専門医による診断・治療が必要である。」

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針 2014
(3)睡眠障害について
 

睡眠障害はメンタルの不調では高頻度にみられる症状です。特にうつ病ではかなりの確率で睡眠に関する症状や不調が現れます。

また睡眠がとれないことにより十分な休養ができずミスや遅刻が増える、そのことに対する叱責や自責によって落ち込み、明日もミスをするのではないかとまた眠れない……といった負のサイクルへ陥ってしまう場合もあります。
なかなか眠れない・寝ても寝た気がしないけれど、「よくあること」として後回しにせず専門家に相談することが重要です。
 

心身の健康と睡眠

ストレスを感じることがなぜ不眠につながりがちなのでしょうか?

ストレスを強く感じると、体は「命の危機だ!」と認識し、ストレスホルモンであるアドレナリンを分泌します。アドレナリンは 動物が敵から逃げなければならない・狩りを行うときに分泌されるホルモンで、心臓がどきどきする・冷や汗が出る・息が荒くなるなどの「ストレス反応(身体の興奮状態)」を引き起こします。

通常、アドレナリンの分泌はストレスがある一時のみで止まり身体は元の状態に戻りますが、ストレスが長期間にわたるとストレスのある状況から解放されてもアドレナリンが分泌し続けてしまうようになります。
アドレナリンが出続けるため、常に緊張して「ストレス反応」を引き起こし続けているため、 休憩中、睡眠中でも脳や体は休まることなく活動し続け てしまい「眠れなくなる」のです

これが大まかな睡眠障害のメカニズムです。

体が興奮・緊張するホルモンとストレスが密接に結びついていること、休まらないことがストレスになってしまうことなどからも、「ストレスを感じる、またはストレスが原因となる疾患と睡眠障害には強い関わりがある」とみられています。
  

睡眠不足が引き起こす疾患

人間の身体はウイルスなどを退治する免疫系、ホルモンなどで体調を整える内分泌系、運動や体調を整える自律神経系の相互作用によって恒常性が保たれています。
しかし、ストレスにさらされ続けるとこれらの機能がバランスを崩して、病気にかかりやすくなったり体調を崩すなど不調にかかりやすくなります。

一番顕著に不調が出るのは「脳の機能」でしょう。
みなさんも睡眠不足を経験した際に、「頭が回らない」「ミスが多くなる」といった経験はありませんか?
仕事に集中する・機械や車を運転するといった高度な操作は、認知能力や記憶力といった脳の高度な機能をいくつも使って処理されています。脳は非常にエネルギーと休養を必要とする器官ですので、睡眠障害によって休憩できなくされると、その働きが格段に悪くなります。
影響を受けるのは集中力などの仕事に関わる面だけではありません。ストレスを感じやすくなったり、いらいらしやすくなったりと感情面・思考面にもマイナスの影響を及ぼします。人の反応も読み取りにくくなり、短絡的なものの見方や感じ方をすることからさらにストレスを感じるようになってしまいます。

いらいらしがちになることは体内ホルモンの分泌異常を引き起こし、以下のような悪影響があるとされています。
・ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌で高血圧になる
・新陳代謝が鈍くなり、体重増加や脂質増加
・睡眠中生産される抗体が減ってしまい、免疫力が低下し病気にかかりやすく
・十分に疲労を回復できず、生活習慣病や 脳卒中の原因につながる


また、「眠らなきゃいけないのに眠れない」ということ自体がストレスとなって、さらなる睡眠障害や不調を引き起こしてしまうといったことも。
夜眠れないことによって日中の眠気がひき起こされ、ヒューマンエラーによる事故の原因にもつながっています。

「眠れない」ということは仕事のミスが増えるばかりではなく、事故や命に係わる疾患の可能性を含んでいるのです。
 

健康づくりのための睡眠指針 2014

厚生労働省は「健康づくりのための睡眠指針 2014」に「睡眠12箇条」を掲載し、睡眠の重要性について啓蒙しています。
      ~睡眠12箇条~
  1. 良い睡眠で、からだもこころも健康に。
  2. 適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリを。
  3. 良い睡眠は、生活習慣病予防につながります。
  4. 睡眠による休養感は、こころの健康に重要です。
  5. 年齢や季節に応じて、ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を。
  6. 良い睡眠のためには、環境づくりも重要です。
  7. 若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。
  8. 勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を。
  9. 熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠。
  10. 眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない。
  11. いつもと違う睡眠には、要注意。
  12. 眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を。

 

社員が睡眠障害かもしれない……
そんな場合、どうしよう?

睡眠障害の特徴の1つとして「日中の過剰な眠気」があります。
最近、同僚や部下、上司などがよく欠伸をするようになった、以前はみられなかったのに居眠りをすることが多くなった場合などは、職場のストレスによる睡眠障害を抱えている可能性を疑ってみるべきでしょう。
睡眠障害では、自分が睡眠障害であることに気づかない場合があります。一緒に暮らしている家族が気づくことはもちろんですが、職場でも従業員の異常に素早く気付くことができるような体制づくりが必要です。
では、そのような従業員には、企業としてどのような対応をすればよいのでしょうか。

急に人事部長や上司から呼び出されて体調などについて訊かれても、正直に話しにくいかもしれません。
睡眠障害が疑われる従業員と比較的仲の良い従業員にそれとなく訊いてもらうというのも1つの方法です。

けれど他の従業員にも業務があるもの、そのような対応を頼みにくい場合は会社に相談窓口などを設けておき、気軽に相談できるような体制を整えましょう。
すでに相談窓口が用意されている場合でも、その存在を知らなかったり、職場のストレスを正直に話したら配置転換になったり解雇されるかもしれない……と心配する人もいるでしょう。
職場のストレスを正直に話しても配置転換や解雇など、不当な扱いは絶対にしないこと、個人情報の管理は徹底していることなどを就業規則に盛り込み、従業員全員の前できちんと説明しましょう。

社内に相談窓口を設置するのが難しい場合は、外部の専門家(弁護士や社会保険労務士、産業医など)に相談窓口になってもらうという方法もあります。

また、ストレスチェックを実施することも対策の1つとして有効です。
個人レベルでは、ストレスチェックの結果で自分のストレス状況を確認し、必要に応じてセルフケアを行う・通院や相談を考えるきっかけになることによってメンタルの不調を未然に防ぐことができます。
企業レベルでは、個人の結果を集計・分析をして職場環境改善活動につなげ、快適な職場づくりを行うことによって従業員のストレスレベルを低下させ、メンタルヘルス不調を防ぐ職場を作ることができるでしょう。


睡眠障害は、メンタルの不調の初期段階に多くみられる症状です。
この初期段階に正しい対処をしておくことで、重症化するのを防ぐことができます。

自分の睡眠や生活については、自分自身で気が付いたり把握することが難しいもの。知識を皆で学んで、互いに健康な職場を目指しましょう!
 

〔 参考・文献 〕

初出:2017年10月30日 / 編集:2019年09月10日

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