コロナ禍で「5月病」も延期?在宅勤務でも起こる「適応障害」:人事・労務担当者のためのメンタルヘルスケアコラム

コロナ禍で【5月病】も延期?在宅勤務でも起こる「適応障害」

在宅勤務の普及に伴い、様々な制度や事柄が変化を続けています。

押印制度の撤廃、ペーパーレス化など社内の体制にもかかわる部分から新しい風を感じている人も多いでしょう。

新型コロナウイルス流行から、在宅勤務・テレワークへの切り替え、業務自体の縮小……
相次ぐ「職場の変化」は従業員のメンタルヘルスやパフォーマンス、就労環境に見えない影を落としています。

通常であれば新入社員等が大型連休明けに陥ることの多い「5月病」、これがだんだん夏や秋口に、しかも今まで見られなかったベテラン社員にも見られていることはご存じですか?

実は「5月病」はいつでもだれにでも起きる「適応障害」の別名、うつ病や職場への不適合を深刻化させるシグナルとしても注目されるべきものです。

今回は見落としがちな不調のサインや発症の引き金になる要因、健康な生活を回復させるために気を付けたい生活のポイントを特集します。
  

海外だと「9月病」……
意外と知らない5月病の正体「適応障害」とは?

環境が変わることは、良くも悪くも「刺激=ストレス」になります。

特に刺激によって「がんばるぞ!」とやる気に溢れている人ほど要注意。

大型連休などでちょっと仕事から離れ、体と心がゆるむと疲れやストレスからなんとなく体調が悪い/会社に行きたくない、出社が憂鬱と思う/なんだか朝の支度に手間取る……など様々な心と体の変化が生じます。

夏に長いバケーションをとる欧米では「9月病」、5月に配属が決まる企業では「6月病」など様々な呼び名があります。

これらの環境の変化から来るいわゆる「5月病」は、医学的には「適応障害」と呼ばれるものです。

適応障害とは「ある状況や出来事にストレスや苦痛を感じるために、気分や行動面にうつ症状や不安感、逃避行動等の症状が現れる状態」を示します。

以前は新しい環境に置かれる新入社員に多いとされた5月病ですが、新型コロナウイルスの流行によって新しい就労環境に置かれた方からも同じような症状・気分を訴えるといった報告が増えつつあります。

在宅勤務やテレワークといった環境に慣れた今こそ出勤などの「ちょっとした変化」がトリガーになることも。

深刻になるとうつ病や他のメンタルヘルスの不調のきっかけとなる「適応障害」、アフターコロナの新しい生活様式の中で今注意が必要な【不調】です。
 

あなたは何個あてはまる?
「適応障害」のサインに気をつけよう!

「適応障害」はいつ誰に起こってもおかしくない、心のSOSシグナルです。
会社で気になる行動を起こしたり不調そうな社員が、実は「適応障害」だったということも珍しくありません。

適応障害は深刻化する前に対応できる不調でもあります。

「精神の変化」「身体の症状」「行動の問題」の3つの変化から、不調のシグナルを見つけてみましょう。
  

まずはリストでチェック!

1朝起きるのがおっくうになった、夜更かしする日が増えた
2身だしなみや人と関わる事が面倒に感じる
3仕事や勉強に身が入らない、集中できない、もたもたする
4忘れ物や誤字などちょっとしたミスが増えた
5コンビニに行くなどのちょっとした外出を「かったるい」と思う
6周りの態度や人の話が気にかかる
7遅刻や欠席など、時間や物事にルーズになった
8なんとなく最近いらいらする、気になることが増えた
9趣味や友達とのレジャーなど楽しい事にやる気が出ない・関心が薄くなった
10通勤やちょっとした外出に対して「疲れる」と感じる
(※情報基盤開発で作成)

※このチェックリストは医学的な診断や健康度合を判断するものではありません。
 あくまでも、自分の今の状態を確認するためにご利用ください。
 

最近1週間の間で、上記のようなことはありませんでしたか?

「もしかして……?」と思う方は要注意。

就職や引越しといった大きなイベントがなくても、
「ちょっと職場の人間関係がうまくいっていない」
「最近きちんと休めていない」
「在宅勤務⇔出勤のバランスが変わった」
など自分でも自覚できていないストレスが影響している可能性があります。

気づいたときがはじめ時、まずはセルフケアを始めてみましょう!
 

自分の不調はどこから?変化に気が付く3ポイント

①精神の変化

適応障害は「精神」の問題と「体」の問題に分けることができます。

「精神」面では、まず無気力感やイライラ、不安感が現れることが多くあります。
出勤前に不安を感じたり、業務中に焦る、いつもやっている作業なのに緊張してしまう……といったことがあるでしょう。

気分の落ち込みやネガティブ思考、好きなことが手につかない・やる気になれないといった症状も。
「面倒くさい」「動きたくない」と思うことも特徴的です。

さらにストレスが深刻化すると、判断しにくくなったり、難しい物事を理解したり考えることに時間がかかるようになりします。
 

②身体に現れる症状

休んでも休んでも疲労感が残る、なんだか胃もたれや腹痛が多い、通勤すると頭痛がする……といった「ちょっとした不調」はありませんか?

肩こり、だるさ、食欲不振や寝つき・寝起きの悪さ(不眠)といったものも、ストレスから来る身体症状でよく見られます。
貧血や低血圧といった体質の方はそれらの悪化が見られることもあります。

さらにストレスを溜め込んでしまうと、過呼吸や手足の震え、めまいなどの生活に支障のある症状が起こる事も。

ストレスから来る身体症状は多種多様に渡ります。
「なんだかつらいな」と思ったらまずは医療機関に相談しましょう。
 

③行動の問題

心身の不調はさらにそれがストレスとなって、行動に現れるようになります。

・遅刻や欠席が増えてしまう。暴飲暴食など生活があれる。
・喧嘩や対人関係のトラブルを起こしがちになった
・約束やルールなどにルーズになり、遅刻やイベントのドタキャン、駐禁といった小さな違反を繰り返す

・反応が鈍い、同じような内容のささいなミスが増えた
・自分の行動や予定、指示などをすぐに忘れてしまう

トラブルや困った行動の裏には「朝起きれない、なんだかだるくて動けない」「いらいらしてしまう、判断力が落ちている」といった心身の問題が隠れている場合があります。
 

適応障害のケアは「ストレスから離れる」が重要
生活リズムを整えて回復力を養おう

適応障害は
1:ストレスをもたらす環境を変える(減らす・取り除く・受け止め方を変える)
2:ストレスへの対応力を養う
の2点を心がけた生活と環境を整えることで回復をサポートすることができます。
 

「ストレスをもたらす環境」を変えよう

適応障害の改善は「ストレスから離れる時間を作る」ことから。
ストレス要因から離れることができると自然と不調が改善することがあります。
いつから不調なのか、何がその原因なのか自分を見つめなおしてみましょう。

通勤であれば時間をずらす、苦手な業務であれば誰かにヘルプを出す・得意な人に教えてもらう等、物理的にストレスの要因から距離をとる対策が回復への大きな一歩になります。

しかし職場ややらなければならないことから完全に離れるのは難しいものです。
ストレスの要因が就労環境や人間関係にあれば、改善まで長い時間が必要になることもあります。

なるべく休む時間はきちんととり、仕事と生活のメリハリを明確にするのも一つの解決策です。
決まった時間・タイミングでストレスの要因に触れることで、思考の切り替えをスムーズにし、より早くその環境に自分を慣らすことができます。
また、不調の時には物事をネガティブに捉えてしまいがちですが、「自分が今調子の悪い時期にある事」を自覚することで、自分自分を落ち込ませることを防げます。

他にも
・休憩時や終業後に楽しいこと(趣味やちょっと豪華な食事など)を設ける
・仕事に対して無心になる、没頭できる作業を見つける
・「行くだけでOK」と自己肯定のハードルを下げる

といった、自分では「こんなささいなことで?」というものも、立派なストレス対処法になりえます。

重要なのは「ストレスを認識する、ストレスに向き合う」ことです。
「原因がわからない」と思う方は誰かに一度不調の原因や自分の感じていることを話して、整理してみてはいかがでしょうか。
 

自分の回復力を高める生活リズムを取り戻そう

感じるストレスを減らす・取り除くこととともに、ストレスの受け止め方・ストレスからの回復力を改善し「ダメージに強く」なることも重要です。

まずは崩れがちになる生活の基本的な部分から整えていきましょう。
・朝起きて夜眠る生活リズムを整え、日光を浴びる習慣をつける
・決まった時間に、栄養のバランスが取れたメニューの食事を摂る
・1日に30分程度、自分に向いている運動を行い軽く汗をかく

・なるべく日付が変わる前に就寝し、6時間以上のまとまった睡眠時間をとる
・入浴や洗顔など身だしなみに目を向け、爪や肌などの手入れに注意する

「栄養のある食事」「適度な運動」「良質な睡眠」は体と心の回復に欠かせません。
カフェイン・甘いもの・刺激物やお酒煙草などの嗜好品の取りすぎや暴飲暴食、休日の寝だめなどの過度の睡眠は逆に生活を崩してしまうので注意です。

生活が整い体力や心の余裕が戻ってきた時が環境改善のチャンス!
・趣味やレジャーに着手してみる
・タスクを見直して、自分の時間と仕事のバランスを調整する
・並行して複数に取り組む環境から、ひとつひとつの仕事に集中する環境へ
・人との交流を増やして、相談できる場所を作る

など、環境の変化を乗り越えるための「よりどころ」を増やす取り組みを行ってみましょう。
 

社員や部下が「適応障害」に!
企業はどうする?対応のポイント

異動や転勤は企業として指示を出すもの、それによって発生するストレスが従業員のパフォーマンスを落とさないようにサポートするのも安全管理の一部です。

特に環境の変化が引金になる適応障害に、企業はどう対応するべきでしょうか。
 

第一にストレスを取り除くサポートを

慣れない環境にいることで起こりがちな適応障害は、第一に「環境になじむ」ためのサポートが有効です。

特にコロナウイルスなどで研修や配属が遅くなってしまった新入社員は、同期や先輩との関係性が構築されておらず不安やわからない業務に行きづまったときに孤立してしまうケースが見られます。
勤務時間内で、顔合わせや気軽に業務の説明・レクチャー・質問ができる時間を設けるなど制度的に交流が持てるようにすることがおすすめです。
本人から素直な意見がきける環境であれば、苦手な業務やつまづきが障害になる前に対応することができます。
この制度があると、人事異動や業務変換などで途中から参加する従業員の適応障害の予防にもなります。

また、在宅勤務から出社になった従業員へのサポートには、「慣らし期間」を設けるのが良いとされます。
本格的に週5勤務を始める前に2週間ほど週2~3で出勤日を設ける週を作り、生活習慣や勤務のリズムを取り戻す時間を設けることで不調につなげない、スムーズな出社復帰を行えます。

不調を感じる社員の対応としても「出勤と休みのバランスをとる時間」は効果があるでしょう。
 

ワークライフバランスの見直しを並行して

感じているストレスに対して心身の反応・回復がきちんと行えていないことが適応障害の本質です。
業務や職場から受けるストレスに対して、体や心が回復するための「時間」がちゃんととれているかどうか。企業側の視点からも確認が必要でしょう。

把握できていない残業が多くなっていたり、慣れない業務が過分にのしかかっていませんか?
また、プライベートな事情(介護や結婚などで環境が変わった、年末調整などの特殊な事務が発生している等)で帰っても休めていない従業員がいる可能性があります。

本人としては「がんばればできる!」と思いたい部分もあるでしょうが、身体を壊さないこと・健康で能力を最大限発揮してもらう事が企業として最優先の事項です。

業務量や得意なこと・苦手なことを元にした負担の再分配を行い、「本人の能力内で終わる」仕事量を目標に調整を行っていきましょう。
 

“話せる”場所に、企業自身がなること

適応障害を抱える従業員は、それぞれに原因は異なるものの「強いストレス」を感じています。

まずは企業がその原因になっていないか、ストレスを吐き出せる・つらいと感じていることを言葉にできる場所を設けましょう。
先の業務環境を整える点にも通じますが、不安やわからない点をすぐに誰かに聞くことのできる環境やタイミングはどの業務を行う時にも重要です。
意見を表現しやすい方法は個人個人異なりますから、会話だけでなくSNSやチャットツールなど「コミュニケーションの取りやすい環境」の選択肢を広げてあげることが大事ですね。

また、働く中で感じるストレスだと同じ部署の人間には吐き出しにくいこともあるでしょう、社外相談窓口や社内で地域別のコミュニティなどを周知紹介するなど部署や業務の垣根を超えた関係の構築を促してはいかがでしょう。

メンタルケアにおける企業組織の強みは、何においても「同じ境遇の人間が複数いる=相談できる人の選択肢がある」事です。
 


適応障害やストレスから来る不調は感染症のように一度罹患すれば免疫ができるようなものではありません。
決して他人事ではなく、誰もがなる可能性が十分ある「身近な、不調の入り口」であることを理解していただければと思います。

従業員が適応障害になった場合には、本人のつらさに耳を傾けて根気よくその回復をサポートできるよう企業の配慮として何ができるか一度考えてみませんか。
 

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〔参考文献・関連リンク〕

初出:2020年10月15日

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