ハラスメント対策:ハラスメント発生時の4ステップと、予防・解決のための3つのポイント

【ハラスメント対策】ハラスメント発生時の4ステップと、予防・解決に欠かせない3つのポイント

パワハラ防止法施行から日も経ち、2022年4月に向けて中小企業でもハラスメントに対する対策企業からご相談をお受けすることが増えてまいりました。

その中でも担当の皆さんが気になるのが「ハラスメントの報告が実際にあったらどうするのか」でしょう。

ハラスメントへの対応は、基本的に4ステップからなります。
①ハラスメントに対する企業の方針やルールを定める
②ハラスメントの相談・報告を受付
③事実確認・ヒアリングを行い、対応・懲罰を協議決定する
④再発防止対策と継続的な当事者ケア


これらの手続きは一般的な労働災害にも通じるところがありますが、ハラスメントの場合は社内の人間関係や種労環境を左右する問題であるためその対応にもより慎重な判断が求められます。

ハラスメントへの基本的な対応の流れと、再発防止の4つのステップを見てみましょう。
 

Step1:まずは「企業の方針」を明確に。
ハラスメントの【 ルール 】は全員に周知を

ハラスメントは、当事者の関係性・組織の風土環境・社会的な圧力……など様々な要因が絡み合って発生するものです。

解決に向けた企業対応を行う際も、個人情報や事実確認のための聴取、処遇対応の決定など慎重に取り扱わなければならない情報や判断が多数関係します。状況や関係性によっては、対応が遅れると情報漏洩が起こったり、ハラスメントの被害者や行為者がまた別の被害に遭うことも。

ハラスメントが起こってから……と考えるのは、企業として危険です。スムーズな対応のためにも、速やかに「ハラスメントへどう対応するのか」を社内のルールにしましょう。

おすすめは就業規則へおりこむことですが、別途ハラスメント対応規定を設けたり、労使協定で対応を取り決めるなど企業ごとに「より従業員へ影響力のある」形態で定めるのがベストです。

折り込む際は、
・ハラスメントに対して、毅然とした対応をとり再発防止を徹底する姿勢
・ハラスメントにあたる行為とはどのようなものか
・ハラスメントが発生した際に、どのように調査するのか、調査で収集した情報の管理方法
・ハラスメント行為に対してどのような処罰、再発防止策を行うのか

の4点が定められていると対応に迷うことがなく安心できるでしょう。

ハラスメント問題の再発や悪化、処罰に対する不満やさらなる被害を未然に防ぐためには「ハラスメントへの対応を、ルールで定め全員が守る」ことが必要不可欠です。

要項はなるべく具体的な行動を示すよう表記し、マニュアルなどで別途まとめておくといざという時素早く行動できます。
 

Step2:報告や相談は早期発見の手掛かり
「複数人で対応」が信頼されるキーワード

では、実際にハラスメントの報告相談が派生した場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか?

パワハラ防止法で定める通り、多くの企業では被害者や目撃・関係した第三者からの報告相談を受け付ける「相談窓口」を設置したことと思います。

その後の相談・報告の取扱いを、以下に大まかな企業のハラスメント対応フローとして図で表してみました。
  

ハラスメント発生後のフローイメージ
フローイメージを大きい画像で表示する
 

相談窓口の運営や報告された情報は、社内の関係性やその後の当事者を取り巻く環境に大きく関与するセンシティブなデータが含まれます。

ハラスメントの問題化・大事化を防ぐためには、「早期発見・未然対応」が重要、そのためにはハラスメント対応を行うフロー全体が信頼できること・安心して対応ができる環境であることが求められます。
 

対応や報告はきちんと本人に説明しよう

相談しようと決心したとしても、相談者の心には不安やショックが大きく存在していることに注意が必要です。

また、個人情報やメンタルヘルスに関する相談情報の取扱いがあるため産業保健スタッフが相談窓口運営メンバーにいると良いでしょう。

ハラスメントとして報告を希望する相談、ハラスメントではないかと疑われる相談を受けた際はまずその場では聞き取ることに注力し、報告内容がハラスメントに値する可能性・危険性や緊急性はあるかの判断は相談窓口の運営チーム全体で行うべきです。

・個人情報の開示は必ず希望を聞き、その内容やレベルを遵守すること
・第三者に確認する時は、誰に聞くのか・誰に確認してほしいのかを確認する
・相談内容を企業へ報告し、その後事実確認や判断を経てから対処が行われること

など、報告を希望する相談者へは別途、相談した後の取扱いや事実確認などでヒアリングする人は誰か、どのように報告するかといった内容をきちんと事前に説明を行い、必ず許可をもらうようにしましょう。

説明や確認を行う際は担当者だけではなく、窓口を運営する部署のメンバーによる確認・報告内容を書面にして本人にチェックしてもらう等記録と相互の意思確認をしっかりと。
 

事実確認は範囲・方法に注意。決定は公平性が肝心

ハラスメントが企業に報告される運びとなったら、人事担当者だけでなく経営陣や労働組合の代表者、また専門的な知見を持つ第三者を含む「対策委員会」を設けましょう。

委員会は情報の共有や事実の確認、対応処罰の判断、適正な情報の管理を行うための手続き管理を話し合い、意思決定する場です。

誰から事情聴取するのか、その順番や日取り・質問内容だけでなく、どのような環境で行うのか、記憶や意見が食い違った場合の判断基準、対応や懲罰についての説明について……
などの「企業としての判断・手続き」をきちんと議事録として記録し、公平性・説明責任を形として残すことができます。

委員会に参加してもらう専門家の選任には注意が必要です。

自社の顧問弁護士などは「会社側の利益や意見が通しやすい・優先しがちな立場にある」として公平な判断や情報の取扱いではないと指摘されてしまう可能性があります。

専門家は「自社の弁護士、関係者」ではない第三者が望ましいです。
労働局などに相談をしてみましょう。

また、委員会の構成員には委員会で知り得た情報に関して守秘義務が発生することを、ハラスメントの当事者にも説明しましょう。

食い違うことの多いそれぞれの主張を客観的に捉え、合理的に判断する場があるということは対応や判断の責任が一人に集中しない信頼感、安心感を与えます。
 

Step3:対応や処罰の決定・通知は「第三者を交えて」
規則に則った判断であることを説明

ハラスメントの事実が確認され、その内容や程度が懲罰の対象と判断された場合はしかるべき対応や懲罰・被害者の保護が行われます。

委員会で判断する場合も、懲罰に値するのが報告相談の中になるどの行為か、あらかじめ定めた規則に則って当該行為をどう判断したのかを文章にまとめ明示しておくことが重要です。企業側の代表・労働者側の代表・専門的な知見を持つ第三者によって確認がなされたことが後からわかるようにしておきましょう。

対応の告知や説明は、どのような判断を経て決定されたのかきちんと本人・行為者双方に行います。

・片方のみに説明する
・どのような定義、基準で判断されたのか伝えない
・当事者に事前の説明なく、告示や通達などで広く知らせてしまう
といった対応は行うべきではありません。

また、懲罰の決定・説明通達のタイミングにも注意が必要です。「事情聴取後すぐさま」または「事実の確認や判断についてきちんと説明されていない状態」で処罰や対応が行われると、当事者や他の従業員に「ハラスメント対応が軽んじられている・当事者、関係者を企業は守ってくれない」という印象を与えてしまいます。

未然に発見できるはずだったハラスメント報告の芽を摘み、本人や行為者の不服を増幅し報復的ハラスメントの発生率を高める結果につながるため、報告や通知は情報をきちんと判断し説明ができるよう整理してから実施しましょう。
 

Step4:繰り返す問題化を防ぐには、「その後のフォロー」を続けよう

ハラスメントの多くは、被害を受けた本人だけでなくその場にいた関係者や職場全体がダメージを追うものです。

ハラスメントとして懲罰が行われた行為だけでなく、双方の誤解として解決した場合でも必ず本人、行為者、必要であれば関係者全員のメンタルケアやフォローは行いましょう。

◆どのような問題があったか、理解を得られる説明
◆ハラスメントに関する知識の再周知・研修
◆ハラスメントを起こした、ハラスメントと感じた感情・認識をケアするカウンセリング
◆被害を受けたメンタル回復のため心理に関する専門家との面談
など、当事者の希望や行われたハラスメントの程度内容に応じたケアを講じ、企業として実施します

メンタルのケアやその後のフォローはその場1回限りで完了するものではなく、「継続的」「定期的」に行われなければ効果がありません。

特に行為者に認識や問題意識を改めてもらう必要がある場合、行為者への研修やカウンセリング・被害を受けた本人のカウンセリングは3カ月に一度などスパンを定め、1年以上は継続して行いましょう。

また、ハラスメントに対する対応と並行して、組織として「ハラスメント行為に対する処遇・懲罰に従わない場合でも、それを理由に不利益な取扱いをしない」というメッセージを周知しましょう。

これは企業としてすでに十分な対応をしたことを従業員に示し、懲罰やハラスメントを行ったことを理由とするいじめや周囲との関係性悪化を防ぐためです。


【ルールで定める】
【なるべく第三者を交えた複数人で考える】
【当事者への説明を欠かさない】

この3つのポイントはハラスメント対応だけでなく、複雑な対応を求められる人事総務のみなさまに気を付けていただきたいポイントですね。

担当者にかかる負担をなるべく減らし、「組織として責任や判断を行う」ことを基本的な対応指針として周知を行うことが対応の第一歩になります。

ハラスメントへの対応は人間関係やその後の環境に関わる事もあり、職務上のトラブルの中では精神的な負担が非常に高い分野です。スピードと慎重さの両方が必要な難しい問題が多いため、企業・委員会・対応窓口といったレベル別の事前準備を進めていきましょう。
 

初出:2020年10月12日

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