ストレスチェック簡易版(23項目)は標準版(57項目)と何が違う?:改めてチェック!ストレスチェック制度

ストレスチェック簡易版(23項目)は標準版(57項目)と何が違う?

ストレスチェックの簡易調査票は簡略版を使用してもよいのか?

ストレスチェックにおいて「調査票」はとても重要です。「職業性ストレス簡易調査票」が厚生労働省により公表されていますが、職業性ストレス簡易調査票には標準版と簡略版の2種類があり、標準版の検査項目は57項目、簡略版は23項目となっています。
厚生労働省は標準版の利用を推奨していますが、簡略版も労働安全衛生規則で定められている「仕事のストレス要因」、「心身のストレス反応」、「周囲のサポート」の3領域を含んでいるので問題なく使用できます。
事業者側としては、きれば検査に時間のかからない簡略版を使用いと考えるのは当然ですが、簡略版を使っても本当に大丈夫なのでしょうか? 標準版と簡略版はどのように違うのか、最終的にどちらがよいのかを以下に詳しく解説します。

標準版と簡略版の違い

職業性ストレス簡易調査票の標準版と簡略版の違いについて、項目ごとに確認してみます。
A項目(仕事のストレス要因)
A項目は、標準版が17項目であるのに対して簡略版では6項目となっており、具体的に削られている質問項目はNo.4~7、11~17の11項目です。
この項目は「仕事のストレス要因」についての質問で、標準版の17項目は種類別に見ると「量的労働負荷(No.1,2,3)」、「質的労働負荷(No.4,5,6)」、「身体的労働負荷(No.7)」、「コントロール(No.8,9,10)」、「技術の低利用(No.11)」、「対人問題(No.12,13,14)」、「職場環境(No.15)」、「仕事の適性(No.16、17)」の8つの尺度に分かれています。
つまり簡略版では「量的労働負荷(仕事量・仕事時間・ハードさがどの程度か?)」と「コントロール(自分のペースややり方、考え方で仕事ができるか?)」の2つの尺度についてのみ検査し、残りの「質的労働負荷(要する集中力・知識や技術がどの程度か?)」、「身体的労働負荷(身体を使う具合はどの程度か?)」、「技術の低利用(自分の知識や技術がどの程度使えているか?)」、「対人問題(部署内外や職場の雰囲気はどの程度か?)」、「職場環境(職場の作業環境はどの程度か?)」、「仕事の適性(仕事があっているか?働き甲斐があるか?)」については考慮されていないということになります。
◆B項目(心身のストレス反応)
B項目は、標準版が29項目であるのに対して簡略版では11項目となっており、具体的に削られている質問項目は、No.1~6、15、17~26、28の18項目となっています。
この項目は「心身のストレス反応」についての質問で、標準版29項目は「心理的ストレス反応(No.1~18)」、「身体的ストレス反応(No.19~29)」の2つの尺度に分かれています。
つまり簡略版では「心理的ストレス反応」で「ひどく疲れているか?」、「不安か?」、「気分が晴れないか?」などの9項目、「身体的ストレス反応」で「食欲はあるか?」、「よく眠れるか」の2項目のみ検査し、その他「活気や元気はあるか?」、「イライラしていないか?」、「集中できているか?」、「めまいや頭痛はないか?」、「肩や腰、目などが疲れていないか?」などの項目については考慮されていないということになります。
C項目(周囲のサポート)
C項目は、標準版が9項目であるのに対して簡略版では6項目となっており、具体的に削られている質問項目は、No.3、6、9の3項目となっています。
この項目は「周囲のサポート」についての質問で、標準版の9項目は「上司や職場、家庭での支援」を確認しますが、簡略版では「上司や職場の同僚からの支援」のみ検査し、「配偶者、家族、友人等からの支援」については考慮されていないということになります。
D項目(満足度)
D項目は、標準版が2項目であるのに対して簡略版では0となっています。
この項目は「職場と家庭に対する満足度」についての質問で、それぞれ「満足」、「まあ満足」、「やや不満足」、「不満足」の4段階の中から1つ選ぶようになっています。簡略版ではこの項目がないので、満足度については考慮されていないということになります。

簡略版のメリット・デメリット

標準版と比べると、簡略版では「A項目:仕事のストレス要因」で11項目、「B項目:心身のストレス反応」で18項目、「C項目:周囲のサポート」で3項目、「D項目:満足度」で2項目の合計34項目が削られています。
これを踏まえて簡略版のメリットとデメリットを考えてみましょう。簡略版の特徴は、標準版よりも検査項目が少なく、1人当たりの検査時間が短い(5分程度)ことです。「検査時間が短い」ということは、①受検者の心理的負担が減る、②事業者の経済的負担が減るというメリットになります。
もう少し詳しく説明すると、①については検査時間が5分程度短くなるので「検査を受けている」という普段にはない状況からくる労働者の心理的負担を減らすことができると考えられます。例えば「受検が面倒」「調べられている感が嫌」という受検者でも、「受けてもすぐに終わる」のであれば受検しやすくなり、受検率アップへの貢献も期待できます。
②については、ストレスチェックの受検には事業者側が場所や環境を準備し提供しなければなならないので、検査にかかる時間が1人当たり5分減ればその分は他のことに使えるようになります。そして最も大きいメリットが「労働者の仕事以外での拘束時間を減らせる」ことです。ストレスチェックにかかる費用は事業者持ちで、基本的に検査は就業時間内に行わなければなりません。しがたって、事業者としては検査にかかる時間は少なければ少ないほどよいのです。
このように、簡略版には受検者と事業者両方の負担を軽減できるメリットがあります。
逆にデメリットをみてみると、「検査項目が少ない」ことから「標準版に比べて詳しい検査ができない」という点が挙げられます。
前述したように、簡略版においてはA項目は8つの尺度のうち2つだけになり、B項目は心理的ストレス反応で標準版の半分の項目、身体的ストレス反応では2項目だけ、C項目では「家族等からの支援」は考慮されず、D項目の満足度はなくなっています。
つまり、ストレスチェック制度の趣旨・目的にある「労働者のストレスの程度を把握する」という点からみると、厚生労働省が公開しているものとはいえやはり標準版と比べて劣ることは明らかで、削られた項目でストレスを感じている労働者がいたら簡略版ではそれを見逃がす可能性は十分考えられます。
職業性ストレス簡易調査票の標準版と簡略版の差、そして簡略版を選ぶことのメリット・デメリットについて述べてきましたが、これらを踏まえて「どちらを選ぶべきか?」ということになると、それは「事業場のストレスチェックに対する考え方」で決まります。
一般的には、高ストレス者の見逃しを防ぐためにも標準版を使う方がよいでしょう。しかし、ストレスチェックだけが企業のやることではないので「1分、1秒でも多く仕事に向かってほしい」と考えるのは当たり前です。また、受検率が低くて悩んでいる場合は簡略版に変えてみるのも1つの方法です。
したがって、標準版を採用するのか簡略版を採用するのかは、前述したメリット・デメリット等を踏まえて、企業および事業場の実情に合わせて決定するとよいでしょう。

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